
東京都新宿区の中井・落合にある「林芙美子記念館」「佐伯祐三アトリエ記念館」「中村彝アトリエ記念館」の、3人の文化人に関連する記念館を紹介します。
それぞれ、都心の新宿にこんな郊外の様な場所があるのか!とちょっと驚く様な場所にあるんですよ!
高層ビル街とは違う新宿の表情も紹介。
新宿・中井を歩く(林芙美子記念館まで)

まず最初に「林芙美子(はやしふみこ)記念館」へ向かいます。新宿駅から都営地下鉄・大江戸線で5つ目の駅「中井」で下車。
地上に出ると交通量のある都道が走っている、街中の風景ですね。

それが裏手の住宅街に入って行くと、ガラッと表情が変わり生活感のある風景が現れますねえ。
流れているのは「妙正寺川(みょうしょうじがわ)」。近隣には神田川も流れており、以前はこの周辺で2つの川が合流していた。それでもって落合って地名が出来たらしいですよ。
このあたりは江戸時代、京都・金沢と並ぶ着物染色の三大産地と言われたそうです(初耳だわあ。。。)。川で染め物の水洗いをする風景は昭和30年代まで見られたそうです。
『林芙美子記念館』 こだわりの和風建築
「10年間暮らした住居」

落ち着いた住宅街の一角に「林芙美子(はやしふみこ)記念館」はありました。
敷地を竹林などで囲い和の雰囲気に包まれた施設ですね。

林芙美子記念館は「放浪記」「浮雲」などで知られる作家・林芙美子が、昭和16年(1941年)から、生涯を閉じる昭和26年(1951年)まで住んでいた建物を改築・整備し公開しているものです。
新宿区立の記念館として平成4年(1992年)に開館しています。

入口を進むと林芙美子の看板が出迎えてくれます。
- 林芙美子(1903 – 1951年)は福岡県の現北九州市出身。
- 大正11年(1922年):作家を目指して尾道から上京しました。以来、様々な職業に就き苦労を重ねました。
- 昭和5年(1930年):「放浪記」がベストセラーとなり一躍流行作家となります。「放浪記」が出版されたその年に上落合に転居して、その後20年余りを落合で過ごしました。
彼女の人の成りや半生を知るには、自叙伝的な「放浪記」を読むと良いと思います。
「山口文象設計による和風建築」

生活棟を中心に建物は構成されています。
設計は和風建築の名手だった山口文象(やまぐちぶんぞう)の設計です。
家を建てた当時の、林芙美子自身の振り返りが紹介されています。
「家を建てるについての参考書を二百冊近く求めて(中略)、材木や瓦や、大工に就いての知識を得た。」とあります。
ふえ~、そこから入りますか。こだわり様がハンパ無いですなー。

そして。。。、「東西南北風の吹き抜ける家と云ふのが 私の家に対する最も重要な信念であった。」と続きます。
確かにすっと通り抜けしやすそうな、自然光が入り明るく開放感ある感じの造りに見えますね。
写真にある特徴的な押し入れの扉は、インド更紗(さらさ)を貼って作らせたもの。

堀こたつが生活感を感じさせる「茶の間」。この部屋は一家団らんの場だった。

「客間」には朝10時頃から入れ替わり立ち替わりで、記者が原稿を取りにやって来たそうです。
不遇の時代が長かったこともあり、原稿依頼は全て受けていたという。それゆえ、執筆に追われ体調を崩していった晩年だった様です。

「小間」は芙美子の母・キクが使っていた部屋。
客間が一杯な時やひき会わせたくない客がぶつかる時は、客間としても使われていたそうです。
客間に入らないほどの取り立て人、っていうのも嫌ですね(苦笑)。

竹林に囲まれ風流なたたずまいの玄関口。
受け取りや執筆依頼の訪問者が毎日多かった為、ここで居留守を使われる訪問者も多々あった様です、ハイ。
「離れのアトリエ」 林芙美子の自画像

住居とは少し離れの配置で、夫・緑敏(まさはる)の「アトリエ」があります。
建設当時は日中戦争の最中で、新築建坪制限があったそうです。その為、生活棟とアトリエ棟の名義を分けて建築し、坪数を稼ぐ”技”が使われたそうです。
アトリエは現在は展示室になっています。

林芙美子の自画像。
小説で著名になる前は、画家を志そうとしたこともあったとか。

生前愛用していた着物や帯、下駄など。
「ふみこの庭」 壺井栄が贈った木

郊外のどこか田舎な景色に見えますが。。。新宿なんですよ、ここ(苦笑)。こんな風景があるとはねえ。
自慢の庭には自ら購入した樹木や野草や、”二十四の瞳”の作者として知られる小説家・壺井栄から贈られた木などが今でも庭を飾っています。

記念館内の裏手が小高い丘みたいになっていました。
こちらにも小さな森の様な散策路があり、思わず「 おお。。。」と小さく唸ってしまった。
林芙美子記念館の基本情報・アクセス
住所:東京都新宿区中井2-20-1(GoogleMapで開く)
入場料:一般 150円、小・中学生 50円
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜日(月曜日が休日にあたるときは翌日)、年末年始(12/29~1/3)
アクセス:
電車)
・都営地下鉄大江戸線・西武新宿線「中井駅」より徒歩7分
・地下鉄東西線「落合駅」より徒歩15分
新宿・中井~落合を歩く
林芙美子記念館から、中落合にある次の佐伯祐三アトリエ記念館までのんびり歩きます。
「中井通り」 急坂多し

林芙美子記念館の脇には四の坂通りと呼ばれる、雰囲気ある急坂がありました。
ここは中井にある八の坂のうちの四の坂。坂の多い地形であることがわかります。

妙正寺川と並行して東西に通じる中井通りを、落合方面に向かいます。
通りを歩いて行くと江戸時代の見晴らしの名所・見晴坂もありました。住宅で展望は遮ぎられており”元”見晴坂状態でしたが。
新宿も結構起伏に富む地形があるんだなー、と感じながらの散策。
「聖母坂通り」 キリスト教通り!?

新目白通りを越え、緩やかな坂が続く閑静な雰囲気の「聖母坂通り」を歩きます。
通りの名前の由縁となる「聖母病院」。約80年超えの歴史をもつカトリック系の大きな病院。

こちら上智大学の目白聖母キャンパス。
『佐伯祐三アトリエ記念館』 大正期のアトリエ建築
「佐伯公園とアトリエ記念館」 大正の下落合風景

聖母坂通りも終わりの辺りで”佐伯祐三アトリエ記念館”の大きな看板が出てきたので、路地に入る。
着いたも同然のはずだが。。。記念館の入口が見つからない。あれ?
グルグル歩いて、やっとこさ案内板を発見。ちょっと分かり辛いので、迷ったら地元の人に尋ねた方が良いかもしれません。

佐伯祐三アトリエの庭を整備した「佐伯公園」が見えてきました、ふう。
隠れ家的な(見つけ辛いという意味でも。。。)、可愛らしく綺麗な公園です。

こちらが新宿区立「佐伯祐三アトリエ記念館」。
木造洋風建築の爽やかな風合いのアトリエ。新宿の住宅街の中にいるのに「あれ?軽井沢かい?」みたいな(笑)、素敵な空間の発見です。
ここは大正時代のアトリエ建築が残る貴重な施設となります。

洋画家・佐伯祐三(1898 – 1928年)は、大阪府西成郡(現・北区)出身の大正・昭和初期の洋画家です。
- ■ 東京美術学校 西洋画科在中の大正10年(1921年)、下落合のこの地に仲間の助けを得てアトリエを新築。
- ■ 卒業後の大正13年にフランスに渡り、フォービズム(訳すと”野獣派!”)と呼ばれる前衛的な画流の画家モーリス・ド・ヴラマンクらに師事。
- ■ 翌年帰国し、この下落合のアトリエで連作「下落合風景」を描きました。
- ■ 昭和2年(1927年)、再びフランスに渡り翌年パリで短い生涯を閉じました。

ライフマスクが展示されています(複製)。自画像では飽き足らず、芸術家はこういうものも作りたくなるのですかねえ。

「下落合風景」の一枚。
昭和初期の落合の風景が描かれています。ふ~む、こんな放牧的な景色だったのですね。
フランス郊外の風景に通じるものを感じながら、描いたのかもしれんせんね。
佐伯祐三アトリエ記念館の基本情報・アクセス
住所:東京都新宿区中落合2-4-21(GoogleMapで開く)
入場料:無料
開館時間:5~9月:10時~16時30分、10~4月:10時~16時
休館日:月曜日(月曜日が休日にあたるときは翌日)、年末年始(12/29~1/3)
アクセス:
電車)
・西武新宿線「下落合駅」下車、徒歩10分
・JR「目白駅」下車、徒歩20分、又は、都営バス(白61・池65)練馬車庫前行で「聖母病院入口」下車、徒歩5分
・JR「新宿駅」西口発 関東バス(宿02)丸山営業所行乗車にて「聖母病院前」下車、徒歩2分
『中村彝アトリエ記念館』 大正時代の建築物

最後に、可愛らしい洋風の建物が顔をのぞかせる「中村彝アトリエ記念館」にやって来ました。こちらは比較的分かり易い場所で助かりました(笑)。
ここは大正期に活躍した洋画家・中村彝が大正5年に新築したアトリエを、当時の姿に復原して公開している施設になります。亡くなるまで過ごした場所です。
「展示室」 頭蓋骨を持てる自画像

記念館は「管理棟(展示室)」と「アトリエ棟」に分かれています。
こちらは「展示室」。中村彝の人物紹介や、高性度写真で複製したパネルの展示などがあります。

「頭蓋骨を持てる自画像」は晩年の作品ですが、頭蓋骨を持つって。。。終末感を感じさせる自画像ですな。
代表作は、ロシア人の盲目の作家であるヴァスィリー・エロシェンコを描いた「エロシェンコ像」。重要文化財として東京国立近代美術館で保管されています。

佐伯祐三アトリエにはライフマスクがありましたが、こちらは亡くなった翌日に友人の彫刻家によって製作されたデスマスク(複製)!
いやはや、芸術家のやることは。。。
「アトリエ棟」 イーゼルや家具が残る

こちらは「アトリエ棟」。
湘南にある海の見える別荘、といわれて違和感無さそうな、素朴で洒落た建物だ。
建物内は見た目より奥行きがあり、思ったり広い。

アトリエは大正時代当時の建築部材を利用して復元。実際に中村彝が使用したイーゼルや家具などの展示があります。
天窓があり、自然光がふんだんに入って明るい感じなのが特徴的。
病弱であまり外出できなかったそうなので、このアトリエ自体が作品の素材として大きな役割を担ったようです。

中村彝はこのアトリエに移る前は、「新宿中村屋」裏の画室に住み創作活動を行ってたそうです。
「新宿中村屋」っていうと”中村屋のカリー”で有名な、明治創業の老舗レストラン・食品メーカーですよね?私も時々レトルトのカレーでお世話になっています(笑)。
後に日本の近代芸術・文化に影響を与えた多くの芸術家達が多く集まり、当時その中心的存在になっていたのが中村彝だったそう。
現在も新宿中村屋ビル内に、当時の芸術家たちの作品を紹介する「中村屋サロン美術館」があります。
新宿代表するレストランと新宿の文化活動が結びついたところで、本日の文化的な新宿散策を終了します。
中村彝アトリエ記念館の基本情報・アクセス
住所:東京都新宿区下落合3-5-7(GoogleMapで開く)
入場料:無料
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日:月曜日(月曜日が休日にあたるときは翌日)、年末年始(12/29~1/3)
アクセス: 電車)JR 山手線「目白駅」より徒歩10分
「林芙美子・佐伯祐三・中村彝」3記念館めぐりマップ
歩いて巡った場合の距離と時間の目安ですが、「林芙美子記念館~佐伯祐三アトリエ記念館まで:約1.5km・所要時間約20分程度」「佐伯祐三アトリエ記念館~中村彝アトリエ記念館まで:約1km・所要時間約15分程度」、そんな感じになります。
ご参考にされて下さい。
中井・落合辺りを歩いてみませんか?

3つの記念館巡りを散策のネタにしつつ、新宿の中井・落合地域を歩いてみました。
3記念館とも程よい距離感で、また、知らなかった新宿の風景に出会えてなかなか楽しかったです!
それぞれ3人の芸術家の知識もほぼ持ち合わせがありませんでしたが(恥ずかしながら。。。)、記念館訪問をきっかけに興味を持つという後付けでも良いのかなーとも思います。
新宿の中井・落合辺りを歩いてみませんか?

サステナブルにお得な買い物ができるって、いいんじゃない。
【記事の訪問日:2021/3/10】