さいたま市の南東部には、かつての古代の海の名残である「見沼」と呼ばれる広大な沼地があった。
その見沼を望む高台に鎮座していた「氷川女体神社」では、沼の竜神様を祀る祭祀がおこなわれるなど、この見沼と深い関わりを持っていました。
また、同じ市内にある武蔵一宮 氷川神社と中山神社と繋がりが深く、かつてはこの三社で武蔵一宮の大社を形成していた、ともいわれています。
そんな歴史を紐解きながら、氷川女体神社の見どころを紹介。
目次
「氷川女体神社」武蔵一宮として竜神を祀る神社
太古の海の名残り「見沼」があった地

氷川女体神社の遠景
さいたま市の南東部に鎮座する「氷川女体神社」の周辺には、「見沼田んぼ」と呼ばれる広大な緑地が広がっています。
見沼田んぼ以前のこの地は、かつての古代の海の名残である「見沼(みぬま)」と呼ばれる広大な沼地でした。それが江戸時代に干拓されたことにより、様変わりしたのが見沼田んぼです。
その見沼田んぼに突き出た台地に古くから鎮座している氷川女体神社は、見沼の歴史と深い関わりを持ってきた神社です。
享保の改革により見沼田んぼへと変貌した見沼
徳川8代将軍・吉宗の時代の「享保の改革」により進められた新田開発の一環として、見沼は干拓され見沼田んぼへと姿を変えました。
水源だった見沼溜井を干拓する代わりに、井沢弥惣兵衛為永(いざわ やそべえ)が中心となり、利根川から約60kmに渡って農業用水がを引いたのが見沼代用水で、一帯の農業発展に大きく貢献しました。
武蔵一宮氷川神社・中氷川神社との三社で大社を形成

境内がある台地とその周囲には豊かな社叢が広がっており、常緑広葉樹を中心としたその森林は市の「保存緑地」にも指定されています。
杉の大木の中には、樹齢300年を超えるものもあるらしいですよ。

氷川女体神社は奈良時代の建立とされる古社で、正式な社名の表記は氷川女體神社となります。
社名の「女体」は祭神である女性の神、稲田姫命(いなだひめのみこと)に由来します。
そして鳥居の扁額で注目したいのが、「武蔵国一宮」の文字。
さいたま市内には、氷川神社の総社として知られる「武蔵一宮 氷川神社」があります。また、同市内には明治時代までは中氷川神社と呼ばれていた「中山神社」があります。
一説によると、かつてこの武蔵一宮 氷川神社と中氷川神社、そしてここ氷川女体神社の三社で武蔵一宮という大社を形成していた、という説があるんですね。
各社の筆頭祭神は以下の通りです。
■武蔵一宮 氷川神社の主祭神は須佐之男命(すさのおのみこと)を祀る男体社
■氷川女体神社は稲田姫命(いなだひめのみこと)を祀る女体社
■中氷川社(現中山神社)はその二神の息子にあたる大己貴命(おおなむちのみこと)を祀る王子社
この三社は家族関係であった、ともいわれています。
それを裏付けるのが、一直線上に配置されているという三社の位置関係。実際に地図で確認してみると。。。
確かに一直線のライン上に並んでますね、なるほど不思議。
かつて見沼を囲むように配置された氷川三社は、稲作や水神信仰面での強い結びつきを持って連携していたと考えられています。
徳川家綱命で阿部忠秋が建立した社殿

階段を上がると、豊かな緑に囲まれた静かな境内が現れます。

鳥居を抜けて真っすぐ進んだ先に、千鳥破風を持つ社殿が現れる。
社殿は寛文7年(1667年)に、徳川4代将軍・家綱が忍城主の阿部忠秋に命じて建立させたもの。
阿部忠秋は、徳川3将軍・家光と4代将軍・家綱の2代に渡って老中を務めた人物です。
社殿は拝殿と本殿が幣殿を介して一体化されている、「権現造り」と呼ばれる様式のもの。建物は県の有形文化財に指定されています。

氷川女体神社は古くから武士の崇敬を集めており、奉納品も多く残っています。
鎌倉時代の物では、鎌倉幕府第3代執権・北条泰時(やすとき)が奉納したとされる三鱗文兵庫鎖太刀(みつうろこもんひょうごぐさりたち)が残ります。
戦国時代以降では小田原北条氏(後北条氏)の綱制札や朱印状。そして、徳川家康の50石の社領寄贈状のほほか、徳川歴代将軍発行の朱印状が12通もあります。
本殿を見ると女性の神であることが分かる!?

本殿
祭神を祀っている本殿側は全面が朱の漆で仕上げられており、屋根が手前側に長い三間社流れ造りの形式だ。
ところで、本殿の屋根部分で主祭神の性別がわかるってご存じでしたか?

本殿の屋根には、斜めに突き出て角ばった「千木(ちぎ)」があります。
写真の左は武蔵一宮 氷川神社の千木で、主祭神は男性神の須佐之男命。右は氷川女体神社の千木で、主祭神は女性神の稲田姫命です。
左のように先端を垂直に削る「外削ぎ」は男性の祭神。右のように先端を水平に削る「内削ぎ」の場合は女性の祭神、だといわれるそうです。神社建築はなかなか奥深いですよね。
御神木から熊の顔が出現!

社殿での参拝後は境内をめぐってみます。
社務所前にあるタブノキの御神木は、氷川女体神社では人気スポットです。

実はこちらの御神木からは、”熊の顔が浮き出ている”といわれています。
なるほど。大きなコブのように突き出た部分をマジマジと見ていると、確かに熊の顔らしきものに見えてくるから不思議。
パワースポットともいわれるので、霊験あらたかな御神木のパワーを頂いて帰りましょう。
巫女人形がズラッと並ぶ不思議な光景

社務所の脇にあったのが、こちらの「巫女(みこ)人形納処」なる場所。ここもなにやら不思議な雰囲気があります。
”お願い事が叶ったら、着物をきせてお礼参りいたしましょう”、と書かれている。
戻ってきた人形が沢山あるということは、多くの願いごとが叶っているってことですよね!
天然素材による巫女人形は、一体一体手作りされたものだという。一体は1,200円。
願いごとがあれば、お連れして帰りましょう。
さいたま市のゆるキャラは見沼の竜の子孫!?

境内社の「竜神社」には、竜神様が祀られています。
かつて見沼のほとりにあった氷川女体神社では、沼の主(ぬし)である竜神様を祭るために、長年にわたり「御船祭(みふねまつり)」がおこなわれていました。これは室町時代から続くものだった。
祭りでは神輿(みこし)を載せた船を沼の最も深いところに繰りだし、竜神様に豊作などを願うものでした。
ちなみにさいたま市には「ヌゥ」というゆるキャラがいますが、このヌゥは見沼たんぼのヌシの子孫という設定なんですね。
見沼たんぼの竜神様の伝説は、さいたま市のルーツとして受け継がれています。
*ヌゥのキャラクター確認はさいたま市の 「ヌゥ」 のページでどうぞ。

手水舎
こちらは手水舎。

手水舎
手水舎では竜の彫刻に出会えました。
「船祭祭祀遺跡」 江戸時代の祭祀場の遺跡

境内を下りた場所の正面には、「磐船祭祭祀遺跡復元記念」の石碑が立ちます。

ここは御船祭に関連した遺跡が復元・整備されてる場所。緑に包まれた、厳かな雰囲気の小道が続いています。

こちらが「磐船祭祭祀遺跡」です。
磐船祭祭祀遺跡とは?
前述の通り、かつて氷川女体神社では竜神様を祭る「御船祭」がおこなわれていた。御船祭では船に神輿を載せて見沼を渡し、約5kmほど南東の下山口新田の御旅所まで流しました。
しかし江戸時代に沼が水田へと変わると、行き船が流せなくなり御船祭は中止となった。そこで、代わりに祭礼場をつくり祭礼をおこなう場所としました。
形を変えつつも、祭礼は大切に続けられていったわけですね。
下山口新田の「稲荷社」がある辺りがかつての御旅所だった、と稲荷社現地の案内板に書かれていました。
*稲荷社 埼玉県さいたま市緑区下山口新田18(GoogleMapで開く)
稲荷社の近隣には「見沼通船堀り跡」や「木曽呂の富士塚」などの史跡があるので、それらの訪問とあわせて立ち寄ってみるのも良いかもしれません。(御旅所などの遺構は特にありません。)
「見沼氷川公園」 唱歌 案山子発祥の碑

磐船祭祭祀遺跡と隣接した場所には、「見沼氷川公園」があります。
広々とした緑地公園で、大きな池や裏手にはこじんまりとしたハーブガーデンなどもあり、のんびりと過ごすには良いところです。

公園入口付近には、この地で生まれた唱歌・案山子の作者、武笠三氏の記念碑があります。像の足元には、案山子の歌詞が刻まれている。

公園周囲の見沼代用水沿いには桜並木があり、花のシーズンには賑わうスポットです。
約100本の枝っぷりの良い桜が密集して咲き、とても華やかな情景を見せてくれます。
神社に参拝に行くと、神々についてや神社施設の呼び名・役割について知りたいけど、聞ける相手もいない!
ってことありません?そんな時、網羅範囲が広い本書は結構頼もしいですよ!
氷川女体神社の御朱印

御朱印にも武蔵一宮の朱印スタンプが入ります。
氷川女体神社の詳細情報・アクセス
氷川女体神社
住所:埼玉県さいたま市緑区宮本2-17-1 (GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)・JR武蔵野線「東浦和駅」より国際興業バスさいたま東営業所行「朝日坂上」下車徒歩10分
車)・駐車場は見沼氷川公園の駐車場(20台分)を使用
東浦和周辺のランチは事前予約やクーポン利用で、並ばずお得に!!
周辺おすすめスポット(浦和くらしの博物館民家園ほか)
浦和くらしの博物館民家園
市内の伝統的な古い建造物が移築・復元された野外博物館です。
昔の村にタイムスリップしたような感じが味わえますよ!
あわせて読みたい
武蔵国一宮の女体社「氷川女体神社」は、見沼の竜神様を祀る神社【埼玉・さいたま市】
さいたま市の南東部には、かつての古代の海の名残である「見沼」と呼ばれる広大な沼地があった。その見沼を望む高台に鎮座していた「氷川女体神社」では、沼の竜神様を…
浦和くらしの博物館民家園
住所:さいたま市緑区大字下山口新田1179-1(GoogleMapで開く)
※氷川女体神社から徒歩約30分(約2km)、車で約5分。
大崎公園
約3万8千m2の敷地に芝生の大広場が広がり、小動物が飼育されている動物園もあるさいたま市市営の公園です。
大崎公園
住所:埼玉県さいたま市緑区大字大崎3170-1(GoogleMapで開く)
※氷川女体神社から徒歩約40分(約3km)、車で約10分。
旧坂東家住宅 見沼くらしっく館
見沼たんぼ地域にあった江戸時代の農家家屋を復原し、博物館として公開。
囲炉裏体験など、普段味わえない体験もできますよ。
あわせて読みたい
古民家体験!旧坂東家住宅 見沼くらしっく館、囲炉裏の実演もあるよ【埼玉・さいたま市】
埼玉県さいたま市の「旧坂東家住宅 見沼くらしっく館」は、江戸時代に見沼たんぼと呼ばれたこの地域にあった農家住居を復原した家屋で、博物館として公開されています。…
旧坂東家住宅 見沼くらしっく館
住所:埼玉県さいたま市見沼区片柳1266-2(GoogleMapで開く)
※氷川女体神社から徒歩約40分(約3km)、車で約10分。
見沼通船堀公園
江戸時代に造られた運河の跡が残る。
日本最古の閘門式運河といわれ、あのパナマ運河より100年以上前に造られたもの。
あわせて読みたい
実は凄い!「見沼通船堀」は日本最古の閘門式運河【埼玉・さいたま市】
さいたま市にある「見沼通船堀公園」には、約300年前に造られた運河の跡が残っています。この見沼通船堀は閘門式運河としては日本最古のものといわれ、規模は違えどパナ…
見沼通船堀公園
住所:埼玉県さいたま市緑区大字大間木(GoogleMapで開く)
※氷川女体神社から徒歩約45分(約4km)、車で約10分。
さらに「埼玉県」に関する記事を探す
氷川女体神社に参拝に行こう!
見沼の主である竜神様を祀り、地元のルーツを感じさせる神社。古代のロマンをも感じさせるスポットでした。
車での参拝情報ですが、神社には専用の駐車場はないようです。
高台の下の境内前に駐車する方が多いようですが、見沼氷川公園の駐車場を使わせて頂くのも一考かと思います。
氷川女体神社へ参拝に出かけてみませんか?
記事の訪問日:2021/2/21




さいたま市周辺の立寄りスポットを探して予約しよう!割引プランも!
緑豊かな社叢を持つ神社をさらにチェック!
あわせて読みたい
「鹿島神宮」 に徳川家康・秀忠奉納の貴重な社殿が揃い踏み【茨城・鹿嶋市】
日本全国に約600社ある鹿島神社の総本社「鹿島神宮」は、二千年以上の長い歴史を持つ古社です。古くから武の神として皇室や武将から崇敬された神社で、徳川家康と徳川秀…
あわせて読みたい
「宝登山神社」とロープウェイで行く奥宮、秩父の山々の絶景を望む!【埼玉・長瀞町】
観光地としても人気がある埼玉県長瀞町に、秩父三社の一社でもある「宝登山神社」があります。宝登山神社は自然に囲まれた緑豊かなロケーションに鎮座しており、自然界…
あわせて読みたい
徳川将軍もかつて参拝!越谷久伊豆神社は緑豊かな越谷総鎮守【埼玉・越谷市】
埼玉県越谷市は江戸時代は宿場町でしたが、実は将軍家の御殿もあったんですね。徳川家康や秀忠などが鷹狩りに訪れた際、この御殿に宿泊しました。御殿は越谷久伊豆神社…
あわせて読みたい
岩槻久伊豆神社で運気アップ!厄割石でストレスも発散【埼玉・さいたま市】
埼玉県さいたま市の城下町・岩槻にある「久伊豆神社」はかつては城内にあった神社。創建以来1500年の歴史を持つ古社ですが、クイズ(=久伊豆)神社と読んで、クイズをはじ…
<a href=”//ck.jp.ap.valuecommerce.com/servlet/referral?sid=3694017&pid=889865292″ rel=”nofollow noopener” target=”_blank”><img src=”//ad.jp.ap.valuecommerce.com/servlet/gifbanner?sid=3694017&pid=889865292″ border=”0″></a>
関東近郊へは、気軽なバス旅で出かけてみない?