埼玉県行田市には埼玉県名発祥の地といわれている、埼玉(さきたま)という住所の場所があります。
この地域を象徴するスポットが県内最大の古墳群・埼玉古墳群ですが、そこに隣接した地に鎮座している延喜式社「前玉神社」は埼玉古墳群とも関係の深い神社です。
そんな歴史ロマンあふれる前玉神社の見どころを、神社に住む猫ちゃんが境内を案内してくれる、という楽しげな話題なども交えつつ紹介します。
目次
「前玉神社」埼玉県名発祥の地に鎮座する延喜式社
埼玉古墳群に隣接して鎮座

前玉古墳と隣接する埼玉古墳群
埼玉県行田市には県内最大の古墳群「埼玉(さきたま)古墳群」があり、また、忍城があった城下町であったり、さらに足袋の町として知られるなど、様々な時代の歴史が息づく街です。
今回訪問した「前玉(さきたま)神社」も、埼玉古墳群に隣接して鎮座する、歴史ロマンを感じさせる神社です。
隣接というか。。。境内裏手にまわると、なんと、古墳群の南側に位置する鉄砲山古墳が見えちゃうくらい近い!
元々同じ敷地内にあったのでは?と思わせる立地からも、前玉神社が埼玉古墳群と関係がありそうな雰囲気がひしひしと伝ってきました。
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前玉神社は県名発祥の地?

埼玉古墳群や前玉神社のある行田市埼玉(さきたま)という地域は、埼玉県名発祥の地といわれています。
埼玉県は明治時代に誕生しますが、当時の管轄区域内で最も広かったのが埼玉郡だった、というのが県名決定の理由だったそうです。
埼玉郡の歴史は古く、大宝律令が発足された頃(701年)から郡はあったようですよ。
当時の文献には”武蔵国前玉郡”の表記も見られ、歴史的には”埼玉”と”前玉”の表記は混在していたようですね。
そして、平安時代の延喜式神名帳に埼玉郡の神社として記載されている前王神社は、埼玉県発祥地の中心地にあったと考えられています。
「石鳥居」江戸時代は忍藩より厚い崇敬を受けた

参道入口には時代を感じさせる石鳥居が立ちます。
この大鳥居は江戸時代の延宝4年(1676年)の奉納品で、忍城(おしじょう)城主・阿部正能の家臣と氏子によって建立されたものです。
扁額には”富士山”の文字があるので、江戸時代には富士山信仰があったことが伺えます。
忍城はかつて行田にあった城で、戦国時代に成田氏の居城として築かれました。
天正18年(1590年)に豊臣秀吉は北条氏に対して小田原征伐をおこない、忍城も北条氏配下の一城として攻撃を受けます。
秀吉軍の石田三成は忍城を水攻めにしますが、忍城はそれに屈せず「浮き城」の異名が付いたことで良く知られています。この物語は映画「のぼうの城」でも描かれました。

江戸時代に入ると、寛永16年(1639年)に幕府老中である阿部忠秋が城主として入り、城や城下町の整備をおこないました。忠秋以降も阿部氏が長く藩主を務めました。
前玉神社は歴代藩主により社領の安堵や寄進がおこなわれれるなど、城下町の神社として忍城とのつながりを持ちました。
\ 忍城の詳細についてはこちら!/
小山の上に建つ社殿

参道を進んだ先にある二の鳥居の額は、前玉神社名のものでした。
この鳥居の右手には社務所があります。

三の鳥居の先にこんもりとした小山が現れますが、社殿はこの上にあります。
参拝される方にワンポイントアドバイスですが、季節によっては虫除けスプレー持参を強く推奨します!マジです(苦笑)。
社殿は浅間塚古墳の上に鎮座していた!

前玉神社は場所柄、やはり埼玉古墳群との関連性は深く、元々の創建は400年代後半~500年代前半の古墳時代だったのではないか、という説もあるようです。
参拝する方角が古墳群の方向を向いているのも、その名残ではないか、とも。

そして実は社殿があるこの小山自体も、なんと「浅間塚古墳」と呼ばれる古墳なんですって!これにはピックり。
浅間塚古墳について
以前から古墳という説があったが、本当に古墳か?ということで、平成9・10年に発掘調査が実施されました。
その結果、幅10mに及ぶ周溝が確認され古墳であることが判明。形状は直径約50m・高さ8.7mの円墳とのこと。
石室の石材と思われる角閃石安山岩(かくせんせきあんざんがん)も発見されています。
埼玉古墳群終焉期の7世紀前半頃のものと、時代考察されています。
う~む、このあたりはつくづく古墳の多い地域なんですなあ。

こちらが墳丘上にある社殿です。
前玉神社には出雲系の神様である、前玉比売神(サキタマヒメノミコト)と前玉彦命(サキタマヒコノミコト)の2柱が祀られています。
男女一対の御祭神であることから、恋愛成就や夫婦円満、縁結びの祈願をする参拝者も多いそうですよ。
社殿のある敷地はとにかく狭いです。写真も、これでも一番引きで撮っているんですよ。

拝殿の奥に本殿の一部が見えます。本殿は外側からは見えないという、少し変わった造りでした。
全国的にも最古の万葉集歌碑の一つ

本殿へと続く階段の両脇に立つのは、元禄10年(1697年)に氏子が奉納した2本の灯篭。
これは万葉灯篭と呼ばれており、万葉集のなかで当地について詠われた歌が刻まれています。
万葉集の歌碑としては、全国的にも最も古いものの一つなんだそうです。

右側の「埼玉の津」の碑と呼ばれる灯篭には、
埼玉の 津に居る船の 風をいたみ 綱は絶ゆとも 言な絶えそね(現代語訳)
とあります。
これはかつて行田市下中条の辺りにあった、利根川の船着場で詠まれた歌とされます。現在でいうと利根大堰の近くですね。
左側の「小埼沼の碑」と呼ばれる灯篭には、
埼玉の 小埼の沼に 鴨そ翼(はね)霧(き)る 己が尾に 降りおける霜を 払ふとにあらし(現代語訳)
とあります。
小埼沼は古代の東京湾の入江の名残りだったと、いわれていた沼。
前玉神社から東に2km程離れた場所に、万葉遺跡・小埼沼の史跡碑が立っています。
万葉集とは?
奈良時代末期の8世紀後半に成立した日本最古の歌集で、全20巻から成り約4,500首を収めたもの。
天皇から庶民に至るまで幅広い階層の人々の歌が収録され、当時の社会や生活、恋愛、自然観などを多面的に映し出しています。
有力貴族である大伴家持(おおとものやかもち)が編纂に深く関わったとされ、歌風は素朴で力強く、後世の勅撰和歌集と異なり自由で多様性に富みます。
「万葉仮名」が用いられ、日本語表記の黎明期を示す資料としても貴重です。

こちらは、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した僧侶・歌人である、西行の歌碑。
前玉の宮の栄華を詠った歌が彫られています。
やわらぐる ひかりをはなに かざされて 名をあらわせる さきたまの宮
歌碑は昭和に奉納されたものです。
「浅間神社」富士信仰のあった下の宮

墳丘中腹には「浅間神社」があり、子育て・安産・産業の神様として崇敬されている「木花開耶姫命(コノハナサクヤヒメ)」が御祭神として祀られています。
忍城城中にあった浅間神社を勧請したのに始まる、と伝わります。
江戸時代には頂上の社が「上の宮」と呼ばれ、中腹のこちらが「下の宮」と呼ばれていました。シンプルな呼び名ですねえ。
明治時代になると上の宮は前玉神社に、下の宮は浅間神社の名で境内社の位置付けとなりました。

浅間神社脇にある石碑には富士登山記念碑とあり、富士山信仰の神社として崇敬された名残りが見られます。
富士講と富士塚
江戸時代に、古代より崇高な山であった富士山への信仰登山が盛んとなります。
しかし江戸から富士山までは、今では想像できない程の時間と費用がかりました。
そのためお金を集め代表を選び祈願を託す、「富士講」の仕組みができました。
富士講は江戸時代後期には「江戸八百八講、講中八万人」と言われるほど、江戸で爆発的に流行りました。
そんな富士山信仰や富士講と結びついて広まったのが富士塚で、富士山を模して人工的に築造されたミニ富士です。
富士山に実際に行けない人々がこちらで登山して、その御利益を頂くというものでした。
こちらの浅間神社の場合は人工のミニ富士とは違い天然物ですが(苦笑)、富士山信仰をおこなうには絶好のスポットだったことでしょうね。

浅間神社では当歳児から3歳児の額に朱印を押して成長を祈る、「初山」のお祓いが有名とのこと。
想像するに、お子様本人は激しく嫌がりそうな儀式ですなあ。

浅間神社の向かいにも、富士講と関係してそうな古い石碑がありました。
菅原道真を祀る天神様、そして恵比須様・大黒様

浅間神社の他にも小さな祠の末社がありました。

左の祠は、学問の神様である菅原道真公を祀る「天神様」。

右側の祠には、左に打ち出の小槌をお持ちの大黒様、右には太っ腹な感じの恵比寿様が収められていました。

三の鳥居手前にある「明治神社」には、埼玉地区の16もの神様が合祀されているそうです。
神聖な雰囲気の龍泉池と樹齢600年の御神木

龍泉池
境内には神聖な雰囲気の「龍泉池」がありました。池名より龍の伝承がありそうな池ですが、由緒などは分かりませんでした。
池の中に前方後円墳が!と思ったのは私だけだけか?

こちらは駐車場の入口脇にあった御神木。

イヌマキという常緑の高木で、推定樹齢は600年のもの。
樹高20m・目通り幹周4m・根回り5.5mで、現存するマキとしては県内最大のものなんだそうだ。
看板猫が境内を案内してくれる!?

歴史散歩が続きましたので、ここで前玉神社のゆる目の魅力を紹介。
この神社には4匹の看板猫が住んでおり、境内で参拝客を案内してくれるとのこと。
お気に入りの猫に会うのを楽しみに、参拝に来る方も多いそうですよ。
絵馬も猫の形で可愛らしい!皆さん、思い思いに猫の顔を書き込んでおり楽し気な風景だ。
そういえば本日は境内で猫に会えなかったのが、ちょっと残念。

社務所
一通り参拝を終えたので、社務所で御朱印を頂きます。

おやっ、こんなところに猫がいる!文字通りの看板猫状態にちょっとびっくり。

この子は「きなこDX(デラックス)」という名前で、とても人懐っこい猫でした。
7年前に神社に最初に住み着いたのが、このメスの”きなこDX”とのこと。
その後、メスの”さくら”、オスの”ガガ”、オスの”ミント”がメンバーに加わったそうです。
いや~、猫好きにはたまらないですなあ。
可愛い猫の限定御朱印が人気

そして猫ちゃんにちなみ、毎月22日前後(ニャンニャンの日)に頒布される限定御朱印が人気です。
これは、4匹の猫のスタンプが月替わりで押されるというもの。本日も折角だからと、ニャンニャンの日に併せての参拝でした。
左が前玉神社の通常の御朱印。右が浅間神社の限定御朱印で”さくらちゃん”のスタンプ入りのもの。
良く見ると、台紙も猫の形の浮き出し加工がされた素敵なものでした。
限定御朱印は22日を含む7日間で対応されていますので、是日、頒布日に参拝に来てみてください!
神社に参拝に行くと、神々についてや神社施設の呼び名・役割について知りたいけど、聞ける相手もいない!
ってことありません?そんな時、網羅範囲が広い本書は結構頼もしいですよ!
前玉神社の詳細情報・アクセス
前玉神社
公式ページ
住所:埼玉県行田市大字埼玉字宮前5450(GoogleMapで開く)
アクセス)
電車)
・JR「行田駅」から市内循環バス15分乗車、「埼玉古墳公園前」下車、徒歩7分
・JR「吹上駅」から朝日バス(佐間経由)15分乗車、「産業道路」下車、徒歩で25分
車)
・駐車場あり
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前玉神社に参拝にでかけてみませんか?
前玉神社は古代の歴史を感じさせる、興味深い神社でした。
一方で、人懐っこい猫と出会ってほっこりしたり、猫の御朱印でニッコリできる神社でもありました。
そんなギャップが楽しい、前玉神社を参拝しに出かけませんか?
記事の訪問日:2021/8/21




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