城下町、そして人形のまちとして知られるさいたま市岩槻区にある「岩槻人形博物館」は、日本初の人形専門の公立博物館です。
岩槻人形の歴史や製造方法などが学べる展示室には、江戸時代の貴重な人形なども多く展示されており、人形にそれほど興味がなくても意外に楽しめたりしますよ!
同じ敷地内にある、珍しいヨーロッパ野菜をメインにしたカフェレストランの紹介もあります。
目次
「岩槻人形博物館」 岩槻の伝統産業の歴史に触れる
人形の名産地 岩槻と日光東照宮の関係とは?

博物館の入口に立つ太田道灌像
人形の名産地として全国的にも知られている、埼玉県さいたま市岩槻区。
雛人形の生産地として生産量日本一を誇り、さらに「江戸木目込(きめこみ)人形」「岩槻人形」は経済産業大臣から伝統的工芸品として指定されています。
そんな岩槻の人形のまちとしての発展には、主に次の3つの歴史的な背景があったと考えられます。
1. 岩槻城城下町としての発展
博物館入口に築城者の太田道灌(どうかん)像があるように、岩槻は戦国時代から江戸時代にかけて岩槻城城下町として発展しました。特に江戸時代になると岩槻藩統治のもと、多くの武士や町人、職人が暮らしていた。
そのため城下町には様々な工芸文化が根づき、人形作りに必要な木工や漆工などの技術的な土壌があったと考えられます。
※岩槻城の築城者に関しては諸説あり。
2. 日光東照宮の造営と職人の交流
江戸時代初期に徳川家康を祀る日光東照宮が造営されますが、特に徳川家光による寛永の大造営に際しては、全国から多くの職人が動員されました。
造営過程で岩槻周辺にも優れた職人たちが集まり、定住者も現れたといいます。
これにより木工・彫刻・漆工・金工などの多様な技術が融合し、高度な工芸の町へと発展しました。
3. 岩槻宿としての人の往来、物産の流通
岩槻は城下町だったとともに、江戸と日光を結ぶ日光御成道(にっこうおなりみち)における主要な宿場の一つでした。
そのため土産物や贈答品としての岩槻人形の需要が高まり、江戸でも名産品として広まりました。作った後の流通網も大事、ということですよね。
岩槻人形博物館は日本初の人形専門の公立博物館

そんな人形のまち岩槻に令和2年(2020年)、地元悲願の「岩槻人形博物館」が開館しました。全国的に見ても、国内初の人形専門の公立博物館として貴重な施設です。

鉄筋コンクリート造りの建物ですが、外観は木造建築のような風合。
内部もウッディな内装とガラス張り部分が多いのが特徴で、自然光がたっぷり入ってくる明るい印象の造りですね。
最盛期に300軒もの工房・問屋が軒を並べた

展示施設は常設展と特別企画展の2つで構成されています。訪問時は新型コロナの影響で、特別企画展の開催はありませんでした。
まずは、岩槻人形の製造過程の紹介が中心となる、「埼玉の人形作り」から見学開始です。

人形はこのように、細かいパーツごとに作られているんですね。改めて、へぇ~、という感じ。
岩槻の人形作りにおける、最盛期の様子が紹介されていました。
岩槻は昭和の高度成長期に、人形の産地としての最盛期を迎えました。当時は300軒近い工房と問屋が軒を並べたとのこと。
分業で生産されたパーツを問屋が仕入れ、それを問屋が組上げなどの商品仕立てをして販売、という流通網なんだそうだ。商品企画なども問屋がコントロールするそうです。
結構きちっとした流通網が構築されていたんですね。それにしても300軒は凄い数だ!

専門の作業道具
伝統の人形作りというと、職人が一から十まで一部屋で作り上げるイメージを持っていましたが、わりと分業体制だったわけですね。

顔・頭部分の製作の解説。
朴(ホオノキ)などの木材で原型を彫り、松脂や硫黄で凹型の釜を作る。そこに生麩糊を入れて練った桐粉(きりこ)を詰め、頭の生地を抜いてゆくそうだ。
昔より岩槻周辺は桐箪笥などの工芸品の産地でもあり、その副産物だった桐粉を材料として人形作りが始まったらしい。そこにも人形作りの下地があったわけですね。
江戸時代に京から伝わった木目込人形

もう一つの常設展示室「日本の人形」では、博物館所蔵の作品が紹介されています。

現在の雛人形の原形となる、18世紀後半に江戸で生まれた「古今雛(こきんびな)」。豪華な衣裳をまとい、写実性の高い表現が特徴です。
表情はまだのっぺりとした感じですね。

こちらは木自込(きめこみ)という技法で作られた、加茂人形と呼ばれるもの。
木目込人形は素材の生地に溝を彫り、布の端を押し込んで衣装を着たように仕立てた人形です。
発祥は京都の賀茂神社。神事に使った木箱の余材と、神官衣装の端裂で人形を作ったのに始まるといいます。加茂人形の技法は江戸時代後期に生まれた後、江戸にも伝わりました。

こちらは歌舞伎などの人気役者を模して作られた、江戸時代の「似顔絵人形」。着せ替えが可能で、膝や関節を折って座ったりもできるとのこと。
いやぁ、なかなかリアルな作りですね!表情も衣装も精巧で、人形文化の円熟味を感じさせます。

躍動感を感じさせる江戸時代の鼓打(つづみうち)の「衣装人形」。衣装の立体感と躍動感のある腰つきがいいですね!

江戸時代の立雛人形。雛人形はこういう立ち姿から始まったそうだ。
さまざまな時代の人形を見てゆくと、人形の進化の過程が見られて興味深い。

雛人形の並べ方についての解説もあった。
江戸時代の雛人形には並べ方の細かい決まりはなく、わりと自由に並べられていたらしい。
昭和天皇即位式や天皇の肖像写真などが、現代の雛人形の並べ方に影響しているとのこと。
これはちょっと意外な事実だった。
ということで、本日は人形文化について興味深く知ることができました。何度も訪れたくなるような、魅力的な企画展の開催に今後は期待したいですね。
岩槻人形博物館の詳細情報・アクセス
岩槻人形博物館
公式ページ
住所: 埼玉県さいたま市岩槻区本町6丁目1-1 (GoogleMapで開く)
開館時間:午前9時~午後5時
休館日:月曜日(休日の場合は開館)、年末年始(12月28日から1月4日まで)
観覧料:一般 300円、高校生・大学生・65歳以上 150円 ※展覧会により観覧料が異なる場合あり
アクセス:
電車)
・東武アーバンパークライン「岩槻駅」東口下車、正面の大通りを直進、2つ目の信号(岩槻駅入口)を左折、直進約500m右手。徒歩にておよそ10分
車)
・東北自動車道「岩槻IC」より国道16号線を春日部方面へ約3.5㎞進み、城町2丁目の交差点を左折し、信号2つ目を左折すると約1.2㎞先左側が博物館駐車場
「ヨロ研カフェ(にぎわい交流館いわつき内)」でヘルシーランチを頂く

博物館がある敷地内には「にぎわい交流館いわつき」が併設されています。こちらは観光情報発信やレストランなどを要する多目的施設です。
こちらも残念ながら、レストラン以外はコロナの影響を受けてクローズされていました。
「ヨロ研カフェ」 ヨーロッパ野菜を地産地消

カフェレストランはこちらの「ヨロ研カフェ」。実は訪問に際しては、人形博物館と同じくらいこちらでのランチを楽しみにしていました(笑)。
博物館を楽しんだ後、洒落たカフェでランチ。岩槻界隈には今までなかった組合わせなんで、期待しちゃっています。

ガラス張りでオープンな明るい店内。そして博物館内の雰囲気とも似た、ナチュラルテイストな内装でまとまっていました。
お店の料理の特徴は、埼玉県産のヨーロッパ野菜を中心に、県内の食材にこだわった地産地消スタイルとのこと。ヨーロッパ野菜、ちょっと聞き慣れない食材ですわ。

無料の「デトックスウォーター」。ミント・レモングラス・ライム・ディルが材料とのこと。お~、なんか体に良さそうだ。
見た目も新鮮!珍しいユーロッパ野菜

では料理の紹介。こちらは人気の「ヨロ研野菜たっぷりのワンプレート」で、野菜が多く使われたヘルシーな感じの一皿です。
サラダ、ミネストローネ、パン、そして豚肉のポルケッタ(=ローストしたもの)。
それに、プチヴェール・ラディッキオ・タルティーボ・ロマネスコなど、どこかの国の人の名前みたいな野菜名がずらっと並びます(笑)。さらに数種類のヨーロッパ野菜のソテーが添えらている。
プチヴェールはキャベツの仲間で、ラディッキオ・タルティーボはキク科の野菜とのこと。ロマネスコは、ブロッコリーとカリフラワーが掛けあわさった野菜だ。

こちらは旬の野菜を使った「本日のランチパスタ」。
ブロッコリーに似ているロマネスコは、日本には無い形の野菜ですね。食感はブロッコローより柔らかくて食べやすい感じ。パスタはあっさりしたトマトソースベースで、美味しかったです。
秩父産ジェラートは変わり種多し

秩父産だという、変わり種が多いオリジナルジェラートを見つけてしまい、ついついデザートまで。「酒粕&バナナチョコチップ」と「カッサータ(リコッタチーズのアイスケーキ)」をチョイス。
酒粕&バナナチョコチップは、バナナ感が半端なかった。素材の風味が素直に出ていて美味しかったです、ご馳走さま。
ヨーロッパ野菜の店内販売も

店内にはおみやげの販売コーナーもあり、近所のスーパーでは見かけないようなヨーロッパ野菜が並んでいるのも楽しい。

ヨロ研カフェを運営するさいたまヨーロッパ野菜研究会は、生産者や地域と密着して、さいたまの食文化を盛り上げよう!という活動をしているとのこと。
食文化を通じて、ぜひとも埼玉県やさいたま市を盛り上げて欲しいですね。またお邪魔したいと思います!
写真を見ていると出かけたくなってしまう、素敵なカフェ満載。
緑に包まれた場所や、隠れ家のような空間を探しに出かけてみようか。
ヨロ研カフェ岩槻店の詳細情報・アクセス
ヨロ研カフェ岩槻店
公式ページ
住所:埼玉県さいたま市岩槻区本町6丁目1−2 にぎわい交流館いわつき1F
営業時間:平日:ランチ10:00-14:30、カフェ14:30-17:00(L.O.16:30)、土日祝:ランチ10:00-15:30、カフェ15:30-19:00(L.O.18:00)
定休日:年中無休
にぎわい交流館いわつき(公式ページ)
住所:埼玉県さいたま市岩槻区本町6丁目1−2(GoogleMapで開く)
開館時間:9:00~21:30、休館日:年末年始(12月29日~1月3日)
岩槻人形博物館とヨロ研カフェに出かけてみませんか?
伝統文化「人形のまち」で知られる岩槻は、少し古臭い街のイメージがあるかもしれませんが、こういった新しい施設を中心に盛り上がってくるといいですね。
伝統文化に触れて美味しいランチを楽しむ、そんなのんびりした週末を過ごしに岩槻にでかけてみませんか?
記事の訪問日:2021/2/27
周辺おすすめスポット(岩槻城城址公園ほか)
久伊豆神社
太田道灌は城内の総鎮守として崇敬し、江戸時代には江戸の鬼門にあたるとして、徳川家康も鬼門除けの祈願をしたと伝わります。
境内では孔雀が飼われており、運が良ければその美しい羽根を広げている場面に出会えます。
岩槻人形博物館からは約1.5km程離れた場所にあります。
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岩槻城址公園
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岩槻城址公園
住所:埼玉県さいたま市岩槻区太田3-4 (GoogleMapで開く)
※住所・Mapは岩槻城城門に近い第一駐車場のもの
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