関東近郊で本格な洋館建築を見学したいとなると、都内や横浜あたりで探すイメージでしょうか?
でも実は、埼玉県川口市にも歴史的な本格洋館があるんです。
「旧田中家住宅」は大正時代に建築された重厚な煉瓦造3階建の洋館を中心に、和館や池泉回遊式庭園なども備わった旧邸宅。
国重要文化財に指定された、貴重な建物内部も見学できます。
川口の産業の歴史にも触れられる、旧田中家住宅を紹介します。
目次
大正時代の本格洋館、旧田中家住宅を見学
川口市初の国重要文化財、旧田中家住宅とは?
交通量の多い国道122号線沿いに、旧田中家住宅はあります。
車で都内に向かう際、「あー、なんか洒落た建物があるなあ」と、気になりつつも素通りしてました(苦笑)。
今回機会を得ての初めての訪問となります。
旧田中家住宅は大正12年に建築された煉瓦造3階建の洋館を中心に、昭和初期に増築された和館・文庫蔵(旧仕込倉)・茶室・池泉回遊式庭園・煉瓦塀により構成されています。
そのうち、洋館・和館・文庫蔵・煉瓦塀が、平成30年に川口市初となる国重要文化財に指定されています。
現在は川口市が所有しており、川口市立文化財センター分館として公開されています。
入口正面上のローマ字の「TANAKA」のプレートが、いかにも洋館の雰囲気を醸しだしてます。
所有者だった田中徳兵衛さんに関する知識は全くありませんでしたが、田中家は江戸時代から代々”德兵衞”の名を襲名している当地の旧家とのこと。
明治時代、商才があった4代目の田中德兵衞さんが、2代目が始めた麦味噌の醸造と材木商を引継いで財を成したらしい。
邸宅の建築費用は、現在の貨幣価値で約2億5千万円といわれる。
そして建築には、当時入手可能な最高級の木材が用いられたとのこと。
そのあたりも見どころですね。
洋館には和のテイストが見え隠れ
見学は有料ですが、入館料は一般210円とリーズナブル。
1階でスタッフが全体の案内をしてくれ、その後は建物内の2階・3階、そして庭園・茶室を自由に見学できます。
写真撮影できるのもありがたいですね!
通用口ではステンドグラスが、外の光を柔らかに取り込んでいました。
洋館の1階は、玄関・応接室・食堂・階段室等から構成されています。
最初にある部屋が「応接室」。
玄関から直接入室できるドアがある、来客者に気を配った親切な設計だった。
出窓から差し込む光が、上品なソファーやカーテンなどを照らしていた。
内装を飾る調度品は、ヨーロッパから取り寄せたり、国内で特注されたものだそうです。
見るからに高級そう。。。
美しいソファーにウットリしつつも、見逃がさないようにしたいのが実は天井。
漆喰の装飾部に釣り電燈がついており洒落てますが、その周囲の天井は格天井で和風のデザインなんですね!
一見ミスマッチとも思えますが、調和して独特の風合いとなっています。
設計監督技師:櫻井忍夫(さくらい しのぶ)(1863-1926年)
・日本屈指の堂宮大工棟梁で、京都東本寺本堂も建設した9代目伊藤平左衛門平作のもとで学ぶ。
・その後、イギリスの建築家であるジョサイア・コンドルに学んだ佐立七次郎のもとで見習を経験。
和と洋の名建築家のもとで身に着けた技術が、旧田中家住宅の設計で遺憾なく発揮されてます。
上下階の動線を支える、格調高い階段。
木でできた手摺は、重厚かつ温かみのある印象も。
見学順路に従い、一気に3階へと上がってゆきます。
味噌醸造業が発展していた川口市
3階に上がると、すぐ右手にある重厚な扉に目がゆく。
ここは蔵が増築された部分になっています。
最上階の室内に蔵があるのも、珍しいかも。
室内は資料展示室になっていました。
こちらでは、味噌醸造に関する展示がおこなわれています。
当時付けられた味噌のブランド名は「上田一味噌」。
田中徳兵衛商店の登録商標として、現在も使用されているそうですよ。
昭和初期の周辺一帯の絵図。
田中徳兵衛以外にも、多くの味噌醸造元が記載されています。
そう、味噌醸造業は、川口の地場産業として発展していたそうなんですね。
ふ~む、勉強不足ゆえ初耳でしたわ。
味噌醸造業が発展したのは、地域内で優良な原料麦が獲れたことと、大消費地である江戸に隣接していたことによるそうだ。
岩槻街道(旧日光御成道)沿いだし、舟運も使えるしで、物流の便も良さそうですものね。
2階にも同様の展示室があり、旧田中家に関わる人や歴史に関する展示がされています。
眺望の良い3階には大広間
こちらは「控室」。
大広間でパーティー等の接客がおこなわれる際、使用されたそうだ。
1階の応接室と似たようなサイズ感だが、こちらは重厚というよりもエレガントな雰囲気。
客人がくつろげそうな、柔らかな印象の部屋でした。
そしてこちらは、客人を迎賓するための「大広間」。
天井や壁は漆喰で白く仕上げられ、ギリシャ神殿で見かけるような”イオニア式”の柱が立ちます。
柱は、右端奥手に半分見えているやつです。(切れててすんません。。。)
一般的には大広間は1階にバーンとありそうですが、こちらでは眺望重視で最上階に設けられたそうだ。
当時は建ち並ぶ味噌醸造蔵や河岸場が、こちらから眺望できたようですよ。
洋館の書斎の先に和室が出現!?
再び階段で移動にて、今度は2階へ。
北側のバルコニー。
銅板張りの重厚な手スリが、外観を引き締めています。
こちらの部屋は、主人が使用した「書斎」。
書斎から続く扉を抜けると、おっと!畳張りの広縁が出現。
その先に、数奇屋(すきや)風書院造りの本格的な和室が現れました。
ガラッと雰囲気がかわりますなぁ。
こちらは、和風で迎賓するための部屋として使用されました。
掲げられていた彫刻は、まるで筆で描いたような繊細な描写。
松林桂月(まつばやし けいげつ)という、渡辺崋山らの流れを持つ画家の作品を彫刻にしたものだそうだ。
障子や格子窓の装飾が合わさって創りだしている情景が、繊細で美しいねえ。
通路に障子?と思ったが、これガラスなんですよ。
和と洋が入り混じった、和モダンが洒落ている。
1階和室にも数々の独創的なデザイン
上がったのとは別の、通用階段っぽい階段で一階へ。
この辺になると、迷路を歩いているような感覚になってきている。
和館の1階は、座敷・次の間・仏間からなります。
天井には屋久杉が使われており、贅沢だ。
部屋仕切りは障子だけなので、大きな通しの部屋としても使えそう。
一番奥の部屋にあたる「仏間」では、変わったデザインの障子(?)に魅かれる。
その奥は廊下なんですが、板張りではなく畳張りです。
独創的な障子や調度品のデザインは、独創的な和モダンで美しく、楽しい。
不思議な幾何学模様の建具。
色々あって、見ていて飽きないですねえ。
庭園側から、たっぷりの光が差し込む広縁側。
和館の中にはスタイリッシュな吊り電燈が多く、モダンを感じさせます。
味噌蔵跡に造られた庭園と茶室
洋館・和館の見学後、順路は庭園と茶室へ続きます。
入口正面の洋館のたたずまいからは、こんなシットリとした和の情景に出会えるとは思ってなかったわ。
庭園では、枯山水や鯉の泳ぐ池泉をめぐる回遊式庭園が楽しめます。
元々ここは味噌蔵が建っていた場所で、昭和35年までは味噌醸造がおこなわれていたそう。
昭和48年には味噌蔵などが取り壊され、庭園・茶室が整備されました。
庭園の東側の離れには、大きな茶室の建物。
こちらは建物の中に、さらに路地の庭があるユニークな設計。
寒冷期対応なんでしょうかね?
東京には素敵な名建築が沢山ありますが、そこでお茶できたり食事できたりすると素敵ですよね。
テレビ大阪,BSテレ東の真夜中の人気ドラマ「名建築で昼食を」の原案本!
旧田中家住宅の詳細情報・アクセス
旧田中家住宅
公式ページ
住所:埼玉県川口市末広1-7-2(GoogleMapで開く)
開館時間:9:30~16:30(最終入館16:00まで)
休館日:毎週月曜日 ※月曜日が休日の場合は、その翌平日
入館料:一般 210円、中学生・小学生 50円
アクセス:
電車)
・埼玉高速鉄道「川口元郷駅」下車、2番出口より徒歩8分
・JR京浜東北線川口駅東口からバス(11、12、14番系統)乗車、末広一丁目下車。徒歩3分。
車)
・無料駐車場あり
旧田中家住宅駐車場について
・無料駐車場は国道122号線の上り東京方面沿いにありますが、初めてだと少しわかりずらい。
・旧田中家住宅の敷地には隣接しておらず、正面入口から更に東京方面へ80mほど走った先にあります。(焼肉屋 神戸亭を過ぎたあたり)
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旧田中家住宅に出かけてみませんか?
埼玉県川口市にある国指定重要文化財、旧田中家住宅を紹介しましたがいかがでしたか?
洋風建築の中に和風のエッセンスを溶け込ませ、ユニークな風合いを創り出しているところが、今もって新鮮でした。
川口市の歴史に触れられたのも、良かったでした。
ところで、旧田中家住宅では「茶道体験講座」「見学ガイド付きヨガ教室」などの各種イベントが開始されているようです。ヨガってユニークですね。
そんなイベントにあわせて出かけてみるのも、楽しそうですね!
記事の訪問日:2023/4/9
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