埼玉県行田市にかつてあった「忍(おし)城」は、難攻不落ともいわれた戦国の城。
豊臣秀吉の小田原征伐の際、石田三成軍の水攻めに落ちなかった城として知られ、映画「のぼうの城」の題材としても取り上げられました。
現在は続日本100名城の一つに数えられます。
そんな忍城の歴史を振り返りつつ、城址公園として整備されている本丸跡やその周辺を、かつての城の面影を探してめぐります。
目次
「忍城址公園」を中心に城の面影を追ってみた
続日本100名城に数えられる忍城の歴史
忍城は平地に造られた城でしたが、北に利根川、南には荒川があり、天然の要害に守られていました。
そのため攻めづらい立地にあり、かつては関東七名城の一つといわれました。
忍城の歴史概略
■文明10年(1478年)頃:山内上杉家の家臣・成田顕泰(あきやす)の築城とされる。
■天正2年(1574年):上杉謙信に攻められるも持ちこたえる。
■天正18年(1590年):豊臣秀吉の小田原征伐による攻撃を受け、石田三成らによる水攻めにも果敢に耐えた。その後、小田原城の降伏に伴い開城。
■寛永16年(1639年):将軍・徳川家光の老中・阿部忠秋が忍城主となり大改築に着手。
御三階櫓や城門土塀が完成。
■文政6年(1823年):伊勢の桑名から松平忠堯(ただたか)が移封。忠誠のとき、明治維新を迎えた。
■明治維新後:廃城となる。
城址公園内に復元された建物や遺構については、主に江戸時代以降のものと考えられます。
現在は忍城は続日本100名城の一つに数えられています。
石田三成の水攻めと映画「のぼうの城」
上杉謙信に落とされなかったことで、堅城として知られることになった忍城。
ですが歴史上良く知られるようになったのは、やはり戦国時代の豊臣軍との合戦でしょう。
豊臣秀吉が小田原北条氏を攻めた小田原征伐の際、北条氏に味方していた成田氏の忍城もその渦中となりました。
石田三成率いる豊臣軍の兵約2万人に対し、忍城側は兵と領内の農民併せて3千人程が立て籠もって応戦。
攻略が長引くなか、石田三成は川や湿地帯に囲まれた立地を逆手に水攻めを敢行。
一週間程度で城の周囲に大堤防を築造し、そこに利根川・荒川からの水を流し込んだ。
しかし忍城はこれに耐え落城しなかったことから、後世には「浮き城」と呼ばれるようになった。
忍城は元々河川の水害対策が施されており、本丸は高い位置に配置されていた、というのが沈まなかった城の秘密だったようだ。
忍城は結局落ちなかったが、その後の小田原城の降伏を受けて開城した。
近年に再び浮き城のエピソードが紹介されたのが、平成24年の映画「のぼうの城」。
主演の野村萬斎が、忍城の総大将・成田長親(ながちか)をひょうひょうと演じたのが印象的でした。
映画は大ヒットし、第36回日本アカデミー賞では作品賞をはじめ10部門で受賞。
ご覧になった方も多いかと思います。
\ 忍城水攻めの遺構の詳細はこちら! /
忍城の縄張について
公園の案内板に、平成12年の測量地図に文政6年(1832年)の忍城絵図を重ねた「忍城今昔地図」がありました。
城址公園をめぐる前に、こちらで忍城の縄張りを見てみましょう。
縄張りの配置は、本丸から南に向かい二の丸・三の丸が並ぶ連郭式と呼ばれるもの。
中心部は水堀に囲まれており、周囲には城下町が築かれていました。広範囲に渡る橙色部分は武家屋敷です。
城郭全体の敷地は、現在の行田市市街を含む広範囲に渡っていました。
明治の廃城後は城内の構造物はほとんど撤去され、本丸エリアは公園となりました。
昭和の戦後に御三階櫓(ごさんかいやぐら)が外観復興され、現在は「行田市郷土博物館」を中心とした城址公園として整備されています。
「櫓の石垣石」貴重な遺構
駐車場に近い場所に、櫓に使われていた石垣石の野外展示があった。
天面に穴が空いているこちらの石は、建物の礎石だったようですね。
「進修館表門」 忍藩藩校の現存表門
まずは城址公園の周囲を歩いてみます。
西側の外れにある「進修館表門」。
江戸時代に武士の子弟に教育をおこなう忍藩藩校「進脩館」がありましたが、その表門だったと伝わります。
行田市に現存する唯一の武家屋敷の表門で、天保3年(1832年)の墨書銘により建築時期も分かっているという点でも貴重。
「本丸土塁跡」 数少ない現存土塁の遺構
進修館表門の袖のあたりから、西に向かって続いているのは当時の土塁跡。
こちらは見逃し注意!の貴重な遺構です。
本丸西側を囲んでいた土塁の一部で、南の二の丸と西の土蔵曲輪とは橋で結ばれていたとのこと。
草ボーボーでしたので(苦笑)、草の枯れるシーズンに訪れた方が見やすそうですね。
公園南側との間いには、落ち着いた感じの散策路が続きます。
この辺の土塁は、公園整備の際に造られたもののようです。
土塁上には、弓矢や鉄砲で狙うための狭間を設けた白壁の塀が続いており、雰囲気があります。
「御三階櫓」 城址公園の雰囲気を感じる
西側には忍城跡のシンボル、「御三階櫓」が復元されています。
元々の櫓の所在地は本丸ではなく、少し北東にあった三ノ丸南側だったそうです。
櫓はコンクリート製の外観復元ですが、こうして橋越しに見ると、なかなかにお城然とした雰囲気が楽しめます。
屋根には鯱(しゃちほこ)も載ってますね。
城跡の雰囲気を感じられる記念写真を撮るなら、ココで決まり!
周囲に設けられた堀が情緒を感じさせます。
「東門」 雰囲気のある復元門
復元された重厚な東門は、御三階櫓とともに城跡らしい雰囲気を感じさせます。
両側の小さな扉から城内に入ることができます。
かつて二ノ丸にあった「鐘楼」
公園内の北側にそびえている「鐘楼(しょうろう) 」も、貴重な現存遺構の一つ。
鐘楼は、元々は本丸ではなく二ノ丸の東側隅に所在していた。
明治時代に取り崩された後は、当時の進修館小学校校庭に時の鐘として再建された。
昭和に入って一旦城址公園の向かいにある東照宮へ移転。
平成4年になって、こちらへ移設されました。
転々としましたが、所在が城址公園に落ち着いて良かったですね!
架けられていた鐘は、江戸時代の宝暦14年(1764年)に鋳造されたもので、市指定有形文化財として郷土博物館内で展示されています。
「行田市郷土博物館」 三階櫓にも入場できる
公園内を一通りめぐった後、公園内にある「行田市郷土博物館」を見学。
こちらでは、続日本100名城のスタンプの設置や、御城印の販売もおこなわれています。
博物館では忍城の歴史のみならず、行田市全般の歴史が紹介されています。
令和2年に行田市にある「埼玉古墳群」が国指定特別史跡に指定され、さらに「足袋製造用具及び関係資料」が国重要有形民俗文化財に指定されました。
訪問時は、これにあわせた関連展示がおこなわれていました。
ちなみに、博物館の展示物は撮影禁止でした。
館内ではこちらの渡り廊下で御三階櫓とつながっており、櫓内の見学ができます。
櫓内も展示室となっており、2階は「忍城と城下町」に関する展示、3階は「近・現代の行田」に関する展示、4階は展望室となっています。
御三階櫓内の展望台からの眺望。
じつは展示物についてはあんまり期待してなかったのだが(失礼しました!)、実際に使用された人力車の籠や、御三階櫓の鯱(しゃちほこ)のレプリカなどがあり、けっこう興味深く見学できました。
中でも面白かったのが「石城日記」の展示(複製)。
かつて江戸時代末期の忍藩に尾崎石城という下級武士がおり、この武士が日々の生活を絵日記に綴るっていた。
文字だけに日記だと「読めん。。。」で終わりますが、こちらは絵心豊かに記されており、すごく面白かった!
「諏訪神社・東照宮」諏訪曲輪跡にある神社
城址公園の見学は以上ですが、道路を挟んだ向かいにある「諏訪神社」を参拝しました。
こちらは元々は「諏訪曲輪」と呼ばれた場所で、本丸の北と東を囲むような形状の曲輪でした。
諏訪神社は、成田氏が延徳3年(1491年)に忍城を構築した際、行田市持田村の諏訪社を城鎮守としたのに始まるとされます。
境内には忍城の廃城に関する、興味深い説明板がありました。
忍城は江戸に一番近い親藩だったので、明治4年(1871年)の府県官制とともに、何物も残さず取り壊しが命ぜられた。
しかし建物の数が多く取り壊す費用がない。
そこで入札形式で払い下げ、建物を取りこわしの費用としたそうだ。
また、忍藩に貸金していた家はそれで棒引きとされたらしい。
そんな経緯もあり、家の門や倉が忍城にあった建物だった、という家が近年まで多かったとのこと。
現在では加須市にある総願寺・黒門だけが唯一の完全な建造物なんだそう。
敷地内には「東照宮」も祀られている。
東照宮は元々徳川家康の外孫である松平忠明が、大和国郡山城内に創建した。
松平家の移封に伴い各地に遷座の後、文政6年(1823年)に桑名藩(現、三重県)より忍城内に遷座させたものとのこと。
その後、明治時代に現在の地に移ったそうだ。
草や木々が茂っており分かりづらいのですが、境内北側の外周には当時のものと思われる土塁が残っていました。
「水城公園」は忍城の外堀跡
最後に忍城址から約600m程離れたた場所にある「水城公園」まで、歩いてみました。
水城公園は、かつての忍城の外堀を整備した水辺公園です。
広々として、散歩するには気持ちの良い公園ですよ!
水城公園の南側の端には、「三重櫓跡」の石碑がありました。
現在復元されている御三階櫓は、元々はこの辺りにあったようですね。
公園内の木々が茂ったあたりに、こんもりと土塁状に盛り上がった場所があります。
かつての土塁跡のようにも見えますが、定かではありませんでした。
どうなんでしょうね?
水城公園
住所:埼玉県行田市水城公園1249(GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)
・JR高崎線「行田駅」から市内循環バスで8分「水城公園前」下車
・秩父鉄道「行田市駅」から徒歩13分
車)
・無駐車場あり
「御城印」 博物館内で販売
博物館で御城印を購入、1枚200円也。
行田市商工センター内の観光物産館「ぶらっとぎょうだ」でも購入できます。
明治時代の初めにはまだこれだけ様々な城が残されていたんですね。
貴重な写真の数々に思わず釘付け!
忍城跡の基本情報・アクセス
行田市郷土博物館
住所:埼玉県行田市本丸17-23 (GoogleMapで開く)
一般入場料:大人 200円、大学・高校生 100円、中学・小学生 50円
開館時間:9:00~16:30(最終入館受付16時まで)
休館日:毎週月曜日(祝日・休日は開館)、祝日の翌日(土曜日・日曜日は開館)、毎月第4金曜日(テーマ展・企画展の開催中は開館)、年末年始、その他の臨時休館日
*忍城址は終日営業・年中無休・入場無料。ただし、忍城御三階櫓内は郷土博物館の営業日のみ入場可。
アクセス:
電車)
・JR高崎線「行田駅」東口から: 市内循環バス・西循環コース(右回り)「忍城址・郷土博物館前」下車すぐ。又は、市内循環バス・西循環コース(左回り)「行田市バスターミナル」下車徒歩約5分。又は、市内循環バス・観光拠点循環コース(右回り)「行田市バスターミナル」下車徒歩約5分
・JR高崎線「吹上駅」北口から: 行田折返し場・行田市駅・総合教育センターゆき朝日バス(前谷経由)「忍城」下車すぐ。又は、行田折返し場・総合教育センター・工業団地ゆき朝日バス(佐間経由)「新町1丁目」下車西へ徒歩約10分
・秩父鉄道「行田市駅」南口から徒歩約15分
車)
・東北自動車道「羽生IC」より約25分、関越自動車道「東松山IC」より約40分、圏央道「桶川北本IC」より約30分
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①市内循環バス:「忍城バスターミナル」より東循環コース乗車(左回り:乗車4分/右回り:乗車61分)、「地域文化センター入口」下車。徒歩約10分。
②朝日バス:忍城址より徒歩約8分、「新町一丁目」より佐間経由 吹上駅行乗車約4分、「産業道路」下車、徒歩約15分。
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住所:埼玉県鴻巣市袋326-1(GoogleMapで開く)
※忍城址から車で約15分。徒歩で約70分(約5km)。最寄り駅はJR高崎線の「吹上駅」、または「北鴻巣駅」。
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~観光案内・お土産処~
観光情報館ぶらっとぎょうだ
商工センター内にある観光案内やお土産を販売する施設。
足袋とくらしの博物館に訪問する際には、こちらの駐車場が使用できます。
観光情報館ぶらっとぎょうだ
住所:埼玉県行田市忍2丁目1(GoogleMapで開く)
営業時間:9時~17時
定休日:年末年始(12月29日〜1月3日)
アクセス:
電車)
・JR高崎線「吹上駅」北口下車、バスで佐間経由「新町一丁目」下車(所要約20分)、徒歩3分、又は、バスで前谷経由「商工センター」下車(所要約20分)、徒歩1分
・秩父鉄道「行田市駅」南口下車、徒歩6分
車)
・圏央道「白岡菖蒲IC」より約50分
・関越道「東松山IC」より約45分
・東北道「羽生IC」より約35分
・駐車場50台(行田市商工センター)
バスによる移動について
公共交通機関で訪問する場合は,、バスを上手く利用すると移動が便利です。市内循環バスには「観光拠点循環コース」も設定されています。
行田市の市内循環バスのページ
朝日自動車のページ
観光レンタサイクルについて
市内4カ所で観光レンタサイクルの貸出がおこなわれています。4カ所間での乗り捨て返却も可なので、利用してみてはいかが?
■レンタル場所:忍城バスターミナル観光案内所、JR行田駅前観光案内所、観光物産館ぶらっとぎょうだ、はにわの館(埼玉古墳群内)
■料金:シティサイクル(2人乗り含む):500円/1日、クロスバイク:800円/1日、電動アシスト:1,000円/1日
■貸出・返却施設の営業時間:9:30~16:30(冬期は10:00~16:00) ※ぶらっとぎょうだとはにわの館は9:30~17:00で年間一律
■定休:なし ※12月29日~1月3日は休館
■予約用ページ:行田市公式観光サイト内
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忍城址にでかけてみませんか?
忍城址公園を中心に、周辺をめぐってみました。
埼玉県内の城跡で、お城風情が一番楽しめるのが忍城址じゃないですかね?
当時の遺構自体はかなり少ないですが、いくつか見ることもできました。
所々で忍城史跡碑(三重櫓跡とか)を見かけましたが、これは市内46ヶ所に設置されているそうです。
これを探しつつ、かつての城郭を感じながら町中歩きするのも楽しそうです。
忍城址に出かけてみませんか?
記事の訪問日:2021/8/28
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