秩父は、古来より山岳信仰や神仏習合の文化が根付いた信仰の地でした。
その中でも二千年以上の歴史を持つ古社・秩父神社は、秩父の総鎮守として多くの信仰を集めてきました。
境内には現在も徳川家康が寄進した現在の権現造りの社殿が残っており、江戸時代の名工・左甚五郎が施したとされる彫刻は必見です。
ユネスコ無形文化遺産にも登録されている例大祭・秩父夜祭の紹介なども交えながら、秩父神社の見どころを紹介します。
目次
「秩父神社」二千年以上の歴史を持つ秩父の総鎮守
「秩父神社」平安時代の延喜式社、秩父三社の一社

秩父は古来より山岳信仰や神仏習合の文化が根付いた、信仰の地です。
秩父神社・三峯神社・宝登山神社から成る「秩父三社」は、地域の精神的な柱として厚く崇敬を受けてきました。
また、江戸時代に整備された「秩父三十四観音霊場巡礼」は、西国・坂東と並ぶ日本三大観音霊場の一つとされ、庶民の信仰と観光を結びつけて大規模な巡礼路として発展しました。
これらが重なり合って独自の宗教文化が形成された秩父は、”信仰の里”として現在に至っています。
秩父の総鎮守とされる秩父神社は、交通の便の良い市内の中心部にありながら、緑豊かな鎮守の森に囲まれた鎮座地にありました。

昭和初期奉納の狛犬
秩父神社は二千年以上の歴史を持つといわれる、関東でも屈指の古社です。
その起源は崇神(すじん)天皇の時代までさかのぼり、この地域の豪族である知知夫彦命(ちちぶ ひこのみこと)が、その祖神である八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)を祀ったのに始まるとされます。

神門
秩父神社は平安時代の国家公認の神社の一覧である、延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)にも記載がある格式の高い神社でもあります。
参道を進むと境内の入口には、朱色が鮮やかな神門がありました。
秩父夜祭は秩父神社の例大祭

ところで、「秩父夜祭」は秩父地方でおこなわれている行事として良く知られていますが、実はこれ、秩父神社の例大祭として開催されているものなんですね。
京都祇園祭・飛騨高山祭とともに日本三大曳山(ひきやま)祭の一つに数えられている秩父夜祭は、現在は国重要無形民俗文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
江戸時代中期の絹織産業の発展と共に盛大となってきたもので、屋台を曳き廻す行事は寛文年間(1661~1673年)か享保年間(1716年~1736年)頃に始まったとされます。
夜祭は、例年12月2日が宵宮、12月3日が大祭として開催されています。
徳川家康が寄進した権現造りの社殿

神門を抜けて進むと、落ち着いた雰囲気の社殿が現れます。
現在の社殿は、天正20年(1592年)に徳川家康が社領57石を秩父神社に寄進し、代官であった成瀬吉右衛門に建造させたものと伝わります。
社殿の様式は、拝殿と本殿が一体化した権現造りと呼ばれるもの。
江戸時代初期の建築様式を良くとどめるものとして、県有形文化財に指定されています。
御本殿と共に残っている棟札には、永禄12年(1569年)に武田信玄の侵攻の際に旧社殿が焼失し、徳川家康の関東入国をもって再建さた経緯が記されています。
こちらも社殿と共に県の有形文化財です。

秩父神社には四柱の御祭神が祀られています。
■ 八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)・・・政治・学問・工業・開運の御利益がある祖神
■ 知知夫彦命(ちちぶひこのみこと)・・・郷土開拓の神
■ 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)・・・宇宙創造神で北斗七星の神
■ 秩父宮雍仁親王(ちちぶのみややすひとしんのう)・・・妙見様といわれる
四神もいらっしゃるので、幅広い御神徳が頂けそうですね!

社名が入った扁額は、龍で縁取りされた勇ましいものですね。
その周辺も、色とりどりの彫刻が所狭しと囲んでおり華やかな感じです。
ちなみに社名の表記には、御祭神の知知夫彦命の表記と同様、昔の”ちちぶ”表記が残っています。
「知知夫」の古い表記は知知夫国・知知夫郡として、奈良時代の常陸国風土記や続日本紀の書物において、登場します。
これが平安後期以降になると徐々に「秩父」へと転じ、鎌倉時代には「秩父氏」など、武士団の名にもこちらが用いられるようになってきました。
知知夫彦命
日本書紀に登場する古代の人物。
景行天皇の時代に東国経営のため派遣され、秩父国造に任じられ秩父地方を開拓したとされる。
地域開発や祭祀の基盤を築いた功績により、秩父地方の祖神として尊崇を集める存在。秩父の人々に深く敬われ、後世の妙見信仰や札所巡礼の精神的基盤とも結びついたとされます。
「子宝 子育ての虎」名工・左甚五郎作の彫刻

社殿の壁面を装飾している数々の彫刻は、秩父神社の大きな見どころの一つ。
それぞれが個性豊かで、参拝者を楽しませてくれます。
社殿正面の虎の彫刻は、寅の年・寅の日・寅の刻生まれの、徳川家康にちなんで描かれたといわれます。

虎の彫刻は、江戸時代に活躍した彫刻職人・左甚五郎(ひだりじんごろう)作と伝わります。
左甚五郎といえば、日光東照宮の「ねむり猫」で知られる名工ですよね!
特に印象的なのは、「子宝・子育ての虎」と名付けられた子虎と親虎がたわむれる彫刻。
親虎が豹柄で描かれているのが意味深で、色々な含みを感じる場面です。
「つなぎの龍」龍が彫刻を抜け出して暴れた!?

社殿を左周りに進むと、屋根の妻側の下に「つなぎの龍」と呼ばれる彫刻があります。こちらも左甚五郎作と伝わるもの。
東北の方向に据えられた青龍の姿をしたこちらは、表鬼門を守る役割だといわれています。

実はこの彫刻には不思議な伝承があるんです。
その昔、秩父札所15番に数えられる少林寺の近くの天ヶ池で、棲みついた龍が暴れるという事件が続きました。
そしてその事件が起こった後は、必ずこの彫刻の下に水溜りができていた、というんです。怖っ!
そこで彫り物の龍を鎖で繋ぎ止めたところ、その後は龍は現れなくなったとのこと。

遠目で分かり辛いですが、よく見ると実際に黒い鎖で止めてあるんですよ!
随分細い鎖なので、いつか逃げられてしまうのでは?と少し心配になりましたが。。。
左甚五郎作の彫刻は精巧なので、彫刻に魂が宿って抜け出してしまう、って話は各地で良く聞く逸話だったりします。
「北辰の梟」妙見様のお出ましを持つフクロウ

北側の壁面には「北辰の梟(ほくしんのふくろう)」が彫られています。梟は昔より智恵のシンボル、といわれる生き物なんですよ。
この小さな可愛らしい梟は体は正面の本殿側を向き、顔は反対の北側を向いているという、ちょっと不自然な体勢をとっています。
祭神の一人である妙見様は、北極星を神格化した神様です。そのため梟の顔は妙見様が現れる北極星の方角を向いている、といわれています。
彫刻それぞれに逸話があって、なかなか興味深いですね。
妙見信仰とは
北極星や北斗七星を神格化して祀る日本独自の信仰で、起源は古代中国の天帝信仰にさかのぼる。
日本では仏教の天部(天界の住民)である「妙見菩薩」と習合し、中世以降、武士や庶民の間で広まった。妙見は方角や航海を守る神であると同時に、軍神・福徳神としても崇敬された。
特に千葉氏や秩父氏などの武士団は氏神として妙見を祀り、関東各地に妙見社が分布する。秩父神社の妙見信仰はその代表例である。
江戸時代には養蚕や農業の守護神ともされ、広範な信仰を集めた。
「お元気三猿」日光よりも現代的な三猿

そして、最後の西側の壁面には。。。おおっ!「お元気三猿」が修繕中になっている!う~む、ちょっとショックだな。

写真のパネルがあったので、こちらでガマンですね。
神社の三猿というと、やはり日光東照宮の「見ざる・言わざる・聞かざる」有名。あちらは日本人の奥ゆかしさを表現した、控えめな三猿でしたよね。
一方、こちらの三猿は「よく見・よく聞いて・よく話そう」と、現代的でポジティブな感じの三猿のようですよ。生で見たかったな、グスン。
天神地祇社には全国一ノ宮の神々が集結!

「天神地祇社(てんしんちぎしゃ)」は、本殿北側にある境内社です。
こちらには、全国の計75社の一ノ宮がずらっとお祀りされているんですよ!
これほど多くの一ノ宮の神々をお祀りしているのは、全国的にも珍しいとか。
秩父神社の祭神である八意思兼命は、知恵と判断力を司る日本神話に登場する神様です。
広く多くの神々の意見を纏められていたことから、天神地祇社が造られたのではないかといわれています。
こちらの一社の参拝で全国一ノ宮の徳が頂けるとのことなので、ありがたく参拝させて頂きましたよ。

「柞(ははそ)稲荷神社」には、商売繁盛の神様・倉稲魂神(うがのみたまのかみ)が祀られています。小さなお狐さんが沢山いらっしゃいました。

こちらでは小型鳥居の奉納による願掛けがおこなえます。可愛いらしい鳥居が沢山並んでいました。
「大銀杏」樹齢400年の御神木

そして境内には多くの緑もあります。
こちらは樹齢約400年といわれる御神木の「大銀杏」です。銀杏の葉は、秩父神社の社紋としても使われています。
境内には多くの銀杏の木が植えられているので、紅葉シーズンには良い感じに境内が色づきそうですね。
秩父宮両殿下が御手植えされた銀杏

乳銀杏
昭和8年(1933年)に秩父宮両殿下が秩父神社をご親拝され、その際にそれぞれ銀杏の苗木がお手植されました。
右が秩父宮が御手植された銀杏で、左側が秩父宮妃殿下は御手植された銀杏です。2本寄り添って立っている姿が、なんとも素敵ですねえ。
特に秩父宮妃殿下御手植えのものは、女性のふくよかな乳房のような形から「乳銀杏」と呼ばれています。随分ストレートなネーミングですねえ。

秩父宮妃歌碑
秩父宮勢津子妃殿下は、さらに昭和47年(1972年)の秩父神社の復興祝祭にも御参列されました。
その際にたまわった御歌が、「秩父宮妃歌碑」として残されています。
「神垣も 新たになりて 御ゆかりの 秩父の里わ いよよ栄えむ」と歌われました。

柞の禊川
境内に流れる「柞の禊川(ならのみそぎがわ)」と呼ばれる小川は、秩父神社の御神山である武甲山の地下水が水源とのこと。
独特の姿を持つ武甲山は秩父地方を象徴する山ですが、武甲山からの流水は河川や湧水を潤し、稲作や畑作に不可欠な存在である一面も持っています。
秩父夜祭の元々の趣旨も、春の田植祭にて武甲山の神を秩父神社に歓迎し、農事や収穫を終えた晩秋に秩父夜祭で武甲山に鎮送する神事が起源だった、といわれています。
秩父神社の詳細情報・アクセス
秩父神社
公式ページ
住所:埼玉県秩父市番場町1-3(GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)
・池袋駅より西武池袋線特急レッドアローを利用の場合、全席指定・乗り換えなし。約80分。西武秩父線「西武秩父駅」より徒歩15分。
・高崎駅より、JR「熊谷駅」から秩父鉄道に乗り換え。 秩父鉄道「秩父駅」より徒歩3分
車)
・関越自動車道「花園IC」より約30km。花園IC.を降り、国道140号線を秩父・三峰方面へ。皆野寄居バイパスを利用の場合約50分。
関東の強力なパワーを持った神社を、その位置関係から紐解くなど読み応えのある本。
関東周辺に沢山の素晴らしい神社があることに改めて驚きますね。写真も綺麗!
周辺スポット紹介、秩父祭り会館ほか
「秩父祭り会館」いつでも夜祭体験!

秩父神社の参拝は以上ですが、参拝後の周辺散策の時に出会ったスポットを少しご紹介。
秩父神社のすぐ隣にある「秩父まつり会館」は、秩父夜祭を資料や実演で紹介している展示館です。
こちらでは、最新の技術を駆使した演出により、いつでも秩父夜祭体験ができますよ!
秩父まつり会館
公式ページ
住所:埼玉県秩父市番場町2-8(GoogleMapで開く)
開館時間:9時~17時(4月~11月)、10時~17時(12月~3月) ※入館受付は16:30まで
休館日:第4・第5火曜日(3月~11月)、毎週火曜日(12月7日以降~2月) ※祝祭日は開館、12月29日~1月1日
入館料:一般 500円、小中学生 250円
「秩父ふるさと館」秩父は絹織物で栄えた町

神社前にある道を西に進むと、観光施設「秩父ふるさと館」がありました。
建物は、大正時代に絹織物を扱った問屋の店舗・主屋でした。
現在は観光用の休憩所や土産の販売店、そして飲食店が入る施設として利用されています。

館内は独立した店舗に分かれていました。
写真は土蔵造りを生かしたお店でお酒が飲めるお店で、その名も「蔵部(クラブ) るみん」。
ネーミングがイイですね(笑)。
秩父の蒸留所発の人気ウイスキーである、イチローズモルトが飲めるお店です。
養蚕と絹織物の産地として栄えた秩父
秩父は古くから養蚕と絹織物の産地として知られ、江戸時代には「秩父絹」が大消費地の江戸に運ばれ高い評価を得ました。
特に秩父神社周辺で立った「絹大市」は関東有数の市として繁栄し、秩父夜祭の発展とも結びつきます。
養蚕から製織までを一貫して地域で支えた秩父の絹産業は、近代日本の繊維産業発展に大きな貢献をしました。
秩父ふるさと館
住所:埼玉県秩父市本町3-1(GoogleMapで開く)
開館時間:10時~21時 ※営業時間は店舗によって異なる
定休日:水曜日
アクセス:
電車)
・西武鉄道「西武秩父駅」から徒歩15分
・秩父鉄道「秩父駅」から徒歩5分
車)
・駐車場有(7台分)
「蕎麦屋 入船」繊維の旧取引出張所

秩父神社に程近いこちらも、昭和初期に繊維の取引出張所として建てられた建物です。
国登録有形文化財ですが、現在は「入船」という蕎麦屋として利用されています。
秩父名物のくるみ蕎麦が食べられる人気のお店でした。
秩父のランチは事前予約やクーポン利用で、並ばずお得に!!
\ 秩父名物の豚肉味噌漬も良いし、地ウイスキー・イチローズモルトにもそそられる!/
秩父神社に出かけてみませんか?
静けさに包まれた境内で、歴史を感じながらの参拝ができました。
社殿にある彫刻は見事かつ、どことなくユーモラスな感じがあったのも印象的ですね。
秩父にお出かけの際には、秩父神社にもぜひ立ち寄ってみて下さい!
記事の訪問日:2021/4/25




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