埼玉県嵐山町にある「杉山城跡」は、自然の地形を生かした戦国時代の山城跡です。
続日本100名城の一つに数えられ、城郭ファンからは「築城の教科書」とも呼ばれる人気の高い城跡でもあります。
その一方、文献等による情報が少ないミステリアスな城で、築年代や城主に関する論争が起こったことでも知られます。
そんな、山城歩き初心者から城めぐり上級者まで、幅広く楽しめる杉山城跡の魅力を紹介!
目次
『戦国時代の山城、杉山城跡を歩く』
比企城館跡群にある続日本100名城の一城
杉山城跡は、戦国時代に築城された山城跡です。
杉山城跡がある埼玉県嵐山町は、ほぼ県内中央に位置する「比企地域」と呼ばれるエリアにあります。
比企地域は山間部や丘陵地帯を有する特徴を持ち、かつては北武蔵と呼ばれました。
戦国時代の関東は、公方(くぼう)足利氏、山内上杉氏(やまのうちうえすぎし)、扇谷上杉氏(おうぎがやつうえすぎし)らによる争乱が激化・長期化しました。
その3つの勢力が交差する比企地域は、特に城が多かったエリアで、69ヶ所もの城館跡が確認されています。
その中の代表的な4城館である、松山城跡(吉見町)・菅谷館跡(嵐山町)・杉山城跡(嵐山町)・小倉城跡(ときがわ町・嵐山町・小川町)が国指定の史跡となっています。
この「比企城館跡群」と呼ばれる4城郭には、今も多くの遺構が残っています。
なかでも杉山城跡からは、山の高低差を利用した、戦国時代の様々な築城の技巧が読み取れます。
そんな、「築城の教科書」とも呼ばれる、続日本100名城の一つである杉山城跡を実際に歩いて紹介してゆきます。
山内上杉氏築城説が有力だが、杉山城問題も!?
実は、杉山城の歴史に関する文献等の資料はわずかしかありません。
それゆえ、築城年代や城主など関しては、不明な点が多い城跡でした。
遺構に見られる高度な築城技術より、関東を広く支配した戦国大名、小田原北条氏(後北条氏)の城であったことが以前よりの定説でした。
平成14年(2002年)~平成18年(2006年)に、国指定史跡認定に向けて、詳細な発掘調査が実施されました。
その結果、出土物の製作年代は15世紀後半~16世紀前半に収まった。
また、山内上杉氏に関連する出土品があった。
これらから、築城主は山内上杉氏の可能性が高いことがわかりました。
戦国時代前期に築城。
扇谷上杉氏との抗争に使用され、短期間で廃城になった、とみられます。
しかしその後。。。
研究は、縄張り研究、考古学、文献史学の、各分野の連携により進むものと期待されていた。
ところが縄張り研究側から、解釈に関する異議がでてきたんですね。
これが発端で、「杉山城問題」といわれる論争が長らく続きました。
現在も論議の結論付けがされていないようですが、今後も識者の方々の協力による新たな発見に期待したいところだ。
市野川沿いにある山城
やがて「出郭(でぐるわ)」と呼ばれる、開けた空間が出現する。
大手口の手前にあった郭で、現在は見学路コースの入口となっています。
設置されたボードには、杉山城跡の概要や見学の注意書きがあります。
そして、縄張図が載っている立派なパンフレットが置いてあるのがウレシイ!
簡易トイレも設置されていました。
登城前に、縄張構成を確認しておきましょう。
杉山城は、市野川沿いの山にある山城です。
本郭(ほんくるわ)を中心に、北・東・南の三方向に、それぞれ二の郭、三の郭が梯段(はしごだん)状に連なっています。
一番高い位置にある本郭に向かって、登って行く形になります。
郭の間は、土塁や空堀(水のない堀)で複雑に仕切られています。
現在いる出郭は、ひたすらだだっ広く無防備な空間ですよね。
ですが、当時は案内板の辺りに空堀があったそうだ。
当時の姿を想像しつつ、城内へ進んでゆきます。
横矢の応酬が待ち受ける「大手口」
登り坂になっている「大手口」を進むと、前方正面の土塁に阻まれる。
土塁の高さはそれ程ないですが、そこで槍や弓を持って待ち構えられたら、正面突破は難しそう。
さらに当時は、土塁の上に塀があったと考えられます。
となると、直角に左カーブした道を進むことになる。
道は急に細くなり、一度に大勢は進めない状況になる。
これでは一人ずつ狙い撃ちされそう。。。
そして前方の坂上は、おそらく門で閉ざされていた。
さらに左手には、一旦落ちたら登りずらそうな竪堀が待ち構えている。
こんな感じで、のっけからなんともイヤラシイ構造になっているんですね。
侵入した敵は常に上方からの横矢に狙われる、そんな構造が徹底しているのが杉山城の大きな特徴です。
「馬出郭」で敵兵を待ち伏せ
槍や矢をかいくぐり大手口を抜けて入城すると、「外郭」のヘリにでます。
勢いをつけ過ぎると。。。、空堀に落ちますなぁ。
堀の向かい側にも、特徴的な地形が見えます。
これは「馬出郭(うまだしぐるわ)」と呼ばれる、虎口(出入口)を守るための小さな郭。
突破してきた兵を、矢を持った城兵がここで待ち伏せします。
平常時には簡易的な木橋が架けられているが、敵兵侵入時には橋を切り落とし、行く手を遮断したと考えられます。
馬出郭の空堀の中を、ちょいと空堀ウォーク。
見た目より、あんがい深さがありますね!
敵兵から身を隠すのに十分な深さです。
空堀は敵兵の行く手をはばむ障害ですが、城内側では目立ず移動できる通路となり、また身を潜ませる隠れ場として機能します。
「屏風折れ・切岸」がウネウネと続く
前述のとおり、侵入後も勢いをつけて城内に直進させない構造。
馬出郭側からUターンして、ようやく「外郭」を見通せるようになる。
ここでもまだ、本丸や二の郭などの主要な郭を見通すことはできません。
外郭の左手の高台は、三の郭です。
その側面の断面は、妙にウネウネと折れ曲って続いているのに気づきます。
「屏風折れ」とも呼ばれるこの屈曲は、侵入兵に対して見通しを悪くさせる効果があるんですね。
対して守備する側とすると、兵が潜みやすくなります。
外郭を進んで行くと、やがて左手が堀、右手は崖に挟まれた「帯郭状土塁」と呼ばれる帯状の道に入ります。
進むにつれ、徐々に細い通路に押し込められてゆく。
自分が攻め手なら、城側の術中にはまりつつある感のある、いや~な予感のする造りですよねぇ。
ちなみに右手側は「切岸(きりぎし)」 と呼ばれる、人工的に削られた断崖だ。
落ちると厳しいし、こちらからの侵入もまず難しそう。
一部にビニールシートが掛かり、補修を要する箇所がありそうです。
「堀切」でも横矢が待ち構える
そして右手は本郭方面、左手は南二の郭方面となる分岐点に差しかかる。
堀切と思われる、先の見通しが悪い細い道を抜けることになる。
その通路を、南二の郭虎口側から見下ろしたのがこちら。
通路の上には、ポコッと突き出た「虎口受け」と呼ばれる小さな郭。
侵入兵を待ち構え、ここに城兵が潜んでいる場面が目に浮かんできますなぁ。
この堀切にも、平常時には木橋が掛かっていたと想定されます。
南二の郭から、通って来た帯郭状土塁側を見下ろす。
かなり丸見えな感じですなあ。
この辺りは、右手の大手口側からは死角。
敵兵が曲がってきたところに奇襲を掛けるには、絶好のポイントですね。
南二の郭から先を望む。
道なりに上がった高台が本郭です。
要所の高木が伐採されているため、遺構がとても見やすいですよね?
通路も歩きやすく整備されており、抜群に見学しやすいのが杉山城跡の魅力の一つです。
「本郭」から梯段状の縄張を望む
そして「本郭」に到着。
ここは本郭内部から見た東側の虎口です。
杉山城の中心部だった本郭の全景。
最高部の標高は98.6mです。
色づいた木々が、季節感を感じさせます。
北側には史跡杉山城跡の石碑と、小さな祠がありました。
この背後は一段高く盛土されており、かつては櫓的な建物があったのかもしれませんね。
北東側のヘリの切岸を見ると、本郭は結構な傾斜の上に位置するのがわかる。
入城してきた方角を見下ろす。
右手は南二の郭で、その先が外郭。
本郭に向け、梯段状に上がってきた構造が見てとれる。
杉山城は、決して大きな山城ではありません。
随所に小技的な技巧を凝らして防御しやすい構造にした、実戦用に築かれたコンパクトな城なんです。
いまだ枯れない「井戸跡」
本郭周辺をめぐってみます。
こちらは本郭手前の防御を担う「南二の郭」。
こちらは本郭と二の郭に挟まれた、「井戸郭」と呼ばれる小さな郭。
その名の通り水場を守る役割の郭です。
戦の際の水源は、城内では重要ですからね。
これは井戸の跡。
石で塞がれていますが、今も枯れずに水がしみ出てますよ!
井戸郭の周囲にある堀切。
ここも普段は、右手の本郭側と木橋で行き来していたと思われる。
「東の郭」 自然の地形を利用
入城したのは、本郭から向かって南側の大手口でした。
本郭の東側と北側にも、尾根からの侵入者の防御を担う郭があります。
写真は、東側の尾根に向かい緩やかに下る「東二の郭」。
このあたりは、元々の自然の地形を生かした造りだそうです。
その先の「東三の郭」。
郭の形が良く残っています。
「北の郭」 山城らしいたたずまい
本郭の裏手にあたる「北の郭」。
周囲は城名の通り杉山状態ですね。
山のヘリにあたり、左手の谷側からの侵攻は難しそう。
この辺りは「北二の郭」のようですが、北側は南側・東側ほど整備されていないんですね。
ちょっと遺構の形は分かりづらいです。
城の全体地形を知るのと、山城の雰囲気を味わうには北郭歩きも楽しいと思います。
木々の間から、北側の景色を望む。
いにしえの昔も、同じような景色の中で、周囲の偵察をしていたんだろうな。
御城印・城カード・続日本100名城スタンプの情報
登城記念の御城印は、東武線「武蔵嵐山駅」西口の「嵐山町ステーションプラザ嵐なび」で購入。
城主だったとされる、山内上杉氏の家紋「竹に雀」を中央に配置したもの。
帰り掛けに嵐山町役場に立寄り。
ここでは「続日本100名城」のスタンプ設置とともに、城カードの配布がおこなわれています。
城カード裏面には、杉山城の概要説明もありなかなか良い。
訪問日は日曜日で、配布の窓口は開いてなかった。
事務所の方にお願いしたら、探して頂けて頂戴することができた。
ありがとうございました!
城カード配布場所
配布場所:嵐山町役場 嵐山町教育委員会事務局窓口
住所:埼玉県比企郡嵐山町大字杉山1030番地1(GoogleMapで開く)
配布時間:8:30~17:15
休館日:土曜日・日曜日・祝日・年末年始
続日本100名城スタンプラリー
上記、嵐山町役場庁舎の玄関ホールにスタンプが設置されています。
対応時間:8:30~17:15
*土・日・祝日もスタンプ設置対応されています。連絡先:0493-62-0824
関東周辺の山城攻めをトレッキング視点でまとめた、ありそうでなかったタイプの城攻め本。
これから山城歩きをする人は、東京都にもタフな山城があったりするのには超驚くと思いますよ!
杉山城跡の詳細情報・アクセス
杉山城跡
公式ページ
住所:埼玉県比企郡嵐山町杉山513ほか(GoogleMapで開く)
電車)
・東武東上線「武蔵嵐山駅」から約2.9km(徒歩約40分)
・東武東上線「小川町駅」から小川パークヒル線バス乗車、「小川パークヒル」下車、徒歩約1.5km (約20分)
車)
・関越自動車道「嵐山小川IC」から 約2.6km (約5分)
・駐車場あり
嵐山町のランチは事前予約やクーポン利用で、並ばずお得に!!
\ 自然の宝庫・嵐山町の返礼品は、農産物がオススメ!/
杉山城跡を歩いてみませんか?
埼玉県嵐山町にある杉山城跡を紹介しましたが、いかがでしたか?
杉山城跡では比較的集中したエリア内で、戦国時代の城の特徴の多くを見ることができます。
大変分かりやすいので、これから山城を歩いてみようかな、と考えてる方には特におすすめしたい城跡ですね。
また、敷地内が良く整備されており、見やすく歩きやすいのもオススメしたいポイントの一つ。
これは、ボランティアの方々や、地元の中学校生も参加しての保存活動の賜物なんですよ!
そんな杉山城跡を歩いてみませんか?
記事の訪問日:2021/12/14
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