「浦和くらしの博物館民家園」は中山道の宿場町・浦和宿にあった建物を中心に、伝統的な古い建造物を移築・復元した野外博物館です。さいたま市に残る最も古い民家もあるんですよ。
周囲に住宅のない広々とした田畑の中にあるので、園内をめぐるとあたかも昔の村にタイムスリップしたような感じが味わえます。
建物内では昔の暮らしや季節の行事なども再現されており、大人から子供まで興味深く見学できる園内を紹介します。
目次
「浦和くらしの博物館民家園」伝統的な建造物を集めた野外博物館
復元された7棟の古い建築物

浦和くらしの博物館民家園は、旧浦和市内の伝統的な古い建造物7棟が移築・復元された野外博物館です。
中山道沿いの宿場町「浦和宿」にあった建物を中心に展示がされています。
中山道「浦和宿」について
弘化年間(1844~1848年)頃の中山道筋には、上町(現、浦和区常盤)に96軒、中町(現、浦和区仲町)に47軒、下町(現、浦和区高砂)に69軒の建物がありました。
旅籠屋をはじめ、穀屋・水油屋・飲食店・建具屋道具屋など、多種多様な店が軒を並べていたそうです。
しかし明治21年(1888年)に上町から出火した火事により宿の3分の2は焼き尽くされ、それ以前の建物はほとんど残っていません。
以降の商家は防災を目的として屋根は茅葺きから瓦葺へ、造りは土蔵造りへと移ってゆきました。
当園に残っている古い建物の中には、古い貴重なものも含まれています。
博物館棟としても使用されている「旧浦和市農業協同組合三室支所」が国登録文化財で、その他の多くが市指定文化財です。
「旧高野家住宅」最も古い浦和宿の現存商家

入口から入ると、旧高野家住宅と旧綿貫家住宅が並んでの出迎え。
実は民家園は本日初めての訪問なんですが、市内にこんな施設があったのかあ、と思いつつキョロキョロしています(笑)。
レトロな建物が並ぶ敷地内に入ると、思わず昔の農村にタイムスリップした気分になりますね。

「旧高野家住宅」は、江戸時代末期に造られた木造平屋の建築物です。
屋根は茅葺きで壁は土壁。「出桁作り(だしげたづくり)」と呼ばれる正面に大きく張り出した軒と、瓦葺の下屋庇(ひさし)が外観の特徴とのことです。

旧高野家住宅は、浦和宿にあった商家の建物としては現存最古のものだそうだ。
部材や工法などから、江戸時代の安政年間(1854~1860年)までの建築と考えられています。
高野家は煎餅を製造販売する商家でしたが、その店舗兼作業場部分を復原。元々はさらにその奥に住居部分が続く、奥行の長い造りだったそうですよ。

建物内に入ると、なんだか懐かしい雰囲気の煎餅屋の店舗の様子が。
当園では生活用具などの民俗資料の収集・保存もおこなわれており、それらを展示した建物内には当時の生活感が再現されています。
間取りは土間と板の間からなりますが、板の間は大黒柱を境に二つに分かれており、右手の8畳間は接客や販売をおこなうミセと呼ばれる空間です。
土間は作業場として使用されましたが、物置となっていた屋根裏から直接荷物を上げ下げできるように、天井は吹き抜けでした。
「旧綿貫家住宅」浦和宿にあった明治時代の店蔵

見た目が対照的なその隣の「旧綿貫家住宅」は、明治時代初期築とされる蔵造りの建物です。
こちらも奥行のある造りでしたが、店蔵部分のみが復元されています。
2階の格子窓が虫籠(むしかご)に似ていることから”虫籠窓”などと呼ばれたのは、ちょっと面白いですね。

こちらではガラス越しに壁の内部構造が紹介されています。
「砂ずり」「荒討ち」「返し壁」という3工程によって、壁に土が塗り込まれているとのこと。

綿貫家は旧浦和宿の北側に位置していた商家で、1階の約半分を接客スペースとして使用された土間が占め、残りは畳と板間でした。

重厚な古い金庫がシブイですなあ。

木製のレジスターは初めて見たかも。
後で調べてみたら、レジスターが最初に輸入されたのは明治30年だったそうです。
庚申塔は江戸時代に流行った庚申信仰の名残り

順路の途中には、神社の祠や石碑が配されていました。
こちらはさいたま市桜区西堀の氷川神社の末社だった、「丸山稲荷社」の本殿だった建物。
元文3年(1738年)に建立された一間社流造りものです。

その傍らにあるのは馬頭世観音。

そしてこちらは庚申塔(こうしんとう)。
庚申塔は今でも道端に残っているのを良く見かけますが、元々江戸時代に流行った庚申信仰が発端となっているものとのこと。
庚申塔とは?
旧暦では60日に一度、庚申(かのえさる)の日がまわってきます。
この夜眠ると体内に住んでいる三尸虫(さんしちゅう)が天に昇り、その人の日頃の行ないが天に報告される、という言い伝えがあったそうなんですね。
罪状によっては寿命が縮まると言われ、この日は身を慎み、虫が抜け出せぬよう集まって徹夜して過ごしたんだそうだ。
この集会を3年18回続けた記念に建立されたのが庚申塔だったそうで、碑面に長寿や健康、家内安全や五穀豊穣などの祈りが刻まれたそうです。
といった風習が、全国の農村を中心に大流行したんだそうです。
なんだか不思議な話ですが、長寿や健康を願う気持ちは昔も今も変わらずですね。
「旧野口家住宅」見沼の農家の典型的な母屋

「旧野口家住宅」は江戸時代末期の平屋の木造建築物です。
屋根は四方向に傾斜面をもつ寄棟造りで、屋根は茅葺(かやぶき)。
現さいたま市南区大谷口にあった建物で、寺の庫裏として造られたが、明治になり廃寺になった後は住居の母屋として使用されたとのこと。
屋根が大きく背が高いのが特徴で、見沼地域の農家の母屋としては典型的な形状なんだそうだ。

入った右手は全体の三分の一を占める土間となっており、カマドが設置されていました。

見上げると、高々とした天井内部の構造がわかります。

床上部分には畳の間がありますが、一部は板の間となっていました。

季節がら、こちらには雛人形が飾られていました。
\ 見沼たんぼの歴史についての記事はこちら!/
「旧武笠家表門」特別な日に限り開かれた長屋門

生垣で目隠しされた、大きな建物が見えてきます。

屋敷だと思った建物は、近づいてみると寄棟造りで茅葺き屋根の長屋門でした。
こちらの「旧武笠家の表門」は市内三室の農家にあったもので、江戸時代後期の建築物です。
正面の幅が約14mもある立派な門で、門扉は両開きの引き分け戸で、その右側には潜り戸が設けられています。
武笠家では日常は別の通用門を使用し、婚礼や葬儀などに限り開いたという特別な門でした。
その一方で、門内には作業ができる土間スペースがあるという、農家らしい仕様となっています。
「旧蓮見家住宅」さいたま市内の現存最古の民家

長屋門を抜けた先にあるのは「旧蓮見家住宅」。寄棟造りの茅葺屋根であるこちらの建物は、江戸時代中期のもの。
長屋門とは別の所在だった建物ですが、セットで置かれると大きな農家の御宅を訪問している感じになりますね。

そしてこの旧蓮見家住宅は、現在さいたま市域に残る民家としては最も古いものらしいですよ。
当時の小規模民家の特徴が良く残っている、とのことです。

内部は間口の半分以上が土間です。
床部分手前の板の間は、囲炉裏のある家族の生活空間でした。
その上手にはお客様を迎える”奥(おく)”、さらに裏手には納戸があります。
唯一畳敷きだった”奥”には、床の間・仏壇・戸棚が設けられていました。

敷地の一角にあった「旧中島家穀櫃」は板倉と呼ばれた小建築物で、穀類を保存するためのもの。
江戸時代後期のものですが、この穀櫃は多湿の時には密閉され、乾燥期には通気性が良くなるという優れものなんだそうだ。
この地域の穀物の貯穀方法を知ることができる、貴重な建物です。
「旧浦和市農業協同組合三室支所」美しい大谷石の倉庫

最後に入口付近にあり、かなり大型の建物である「旧浦和市農業協同組合三室支所」(現さいたま農業協同組合三室支店)へ。
元々は政府指定の米穀倉庫として使用されていたもので、現在は国登録文化財に指定されています。石造りで見栄えのする建物ですよね。
元々は大正8年(1919年)に、栃木県小山市内の干瓢(かんぴょう)問屋の倉庫として建築されたもので、昭和31年(1956年)に浦和市に移築されものです。
デカイ建物だけに、わざわざ栃木から移動するのも大変だったでしょうねえ。

大谷石の土蔵造りで、間口は27m・奥行き約7m・高さ約9mのもの。
三角形を基本として構成される”トラス”と呼ばれる洋小屋構造で、寄棟造りで屋根は瓦葺きという和洋折衷の建築物です。
この建物は、博物館の展示棟や資料の収蔵庫等として使用されています。

昔の生活用具などが展示されている展示室。
見学は無料なので、訪問の際には立ち寄ってみて下さい。

建物の傍にある池には、夏になると池一面に古代蓮が咲くそうです。
1,400年~3,000年前の蓮であるとされる古代蓮は、現在の一般的な蓮と比較すると、花びらの数が少なく色がやや濃いピンク色をしている特徴があります。
民家園の古代蓮は開館した平成7年(1995年)に、行田市教育委員会から寄贈されたものだそうです。
\ 行田の古代蓮の郷についてはこちら!/
浦和くらしの博物館民家園の詳細情報・アクセス
浦和くらしの博物館民家園
公式ページ
住所:さいたま市緑区大字下山口新田1179-1(GoogleMapで開く)
開館時間:9時~16時30分
休館日:月曜日(休日を除く)、休日の翌日(土曜日・日曜日・休日・休館日を除く)、年末年始(12月28日から1月4日) ※休館日は変更することもあるので 公式ページの年間カレンダーで確認してお出かけ下さい。
入館料:無料
アクセス:
電車)
・JR武蔵野線「東浦和駅」から徒歩約25分
・JR京浜東北線「浦和駅」東口1番乗り場から、国際興業バスの東川口駅北口行き、または大崎園芸植物園行き、または浦和美園駅行き乗車にて「念仏橋」下車すぐ
車)
・東北自動車道「浦和IC」から約10分
・国道463号(浦和越谷線)沿い、クリーンセンター大崎斜め前。
・無料駐車場あり
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浦和くらしの博物館民家園へ出かけてみませんか?
浦和くらしの博物館民家園は、古い貴重な建築物に出会いつつ、のんびりとノスタルジックに浸れる、ほのぼのした感じの博物館でした。
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浦和くらしの博物館民家園に出かけてみませんか?
記事の訪問日:2024/2/18




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