栃木県足利市は足利氏発祥の地といわれており、当地で名乗られた”足利”の氏の系譜が、やがて室町幕府を創設した足利尊氏へと繋がってゆきました。
鑁阿寺は足利氏2代目の義兼が居館内に建てた寺院で、鎌倉時代に建てられた本堂は国宝にも指定されている貴重なものです。
鎌倉時代には鎌倉幕府執権・北条氏、江戸時代においては徳川将軍家との繋がりが感じられる境内をめぐりながら、その見どころを紹介します。
目次
「鑁阿寺」 鎌倉時代の建築物が残る
足利氏発祥の地、足利尊氏像がお出迎え

鑁阿寺(ばんなじ)は東武・足利市駅からもJR足利駅からも1km圏内にある場所なので、電車でも比較的アクセスがしやすいかと思いますよ。
本日は足利市駅から、市内を流れる渡良瀬川を渡ってやってきました。自然の景観が楽しめるルートで、なかなか良いですね。
やがて街の中心部を走る県道を折れ、大日大門通りと呼ばれる雰囲気のある参道に入りました。

鑁阿寺手前に立っていたのは「征夷大将軍 足利尊氏公像」。
足利市は足利氏発祥の地といわれており、八幡太郎義家(源義家)の孫の義康が足利氏を名乗り、この地を治めたのがその始まりとされます。
その足利氏の8代目にあたるのが、室町幕府を創設した足利尊氏です。
国指定史跡「足利氏宅跡」、日本100名城の一つ

鑁阿寺の入口は楼門の手前に屋根付きの太鼓橋が掛かっており、その独特の形状が印象的でした。
門は永禄7(1564年)に、足利13代将軍・義輝によって再建されたものとのこと。

寺院の周囲はというと、200m四方の敷地周囲が水堀と土塁で固められているんですね。
一般的な寺院の佇まいからすると一風変っていますが、ここはかつて武家屋敷だった場所で、その面影が残っているもの。
鑁阿寺は「足利氏宅跡」として国史跡に指定されており、日本100名城の一つにも数えられている、城郭ファンにもお馴染みのスポットなんですよ。

鑁阿寺の創建は、鎌倉時代に居館を置いていた足利氏2代目の義兼が、建久7年(1197年)に言宗大日派の本山を館内に建てたのが始まりと伝わります。
室町時代になると足利氏の氏寺として、室町将軍家や鎌倉公方家などにより手厚く庇護されました。

楼門の両側に納められている仁王尊像は、鎌倉時代の運慶作と伝わるもの。

楼門の組細工の木組みが美しいですね。
門はどうやら鳩の憩いの場になっているようで、落とし物に注意しつつ境内へ。
国宝の本堂は鎌倉時代の禅宗様建築

本堂
鑁阿寺は大正11年(1922年)に国史跡に指定され、さらに平成25年(2013年)には本堂が国宝指定されています。
建築様式は、日本古来の様式と中国渡来の禅宗様(ぜんしゅうよう)が折衷されたものとのこと。
鎌倉時代の禅宗様の現存建築物自体が希少なうえに、禅宗様初期の例が見られるものとして貴重なんだそうだ。
正面の3分の2ぐらいを占めている雄大な屋根部が特徴的でした。

おや?っとお気付きかもしれませんが、屋根の中央部分だけ色合いが違いますよね。
屋根瓦の葺替えが平成21・22年度に実施されましたが、残った当時の中世瓦を中央部に集中させたためこのようになっています。
そのさらに上の部分に、それぞれ違う3つの家紋が付いているのもちょっと珍しい。
向かって右は「足利二つ引き」と呼ばれる足利将軍家の家紋。真ん中の”菊の紋”と左手の”桐紋”は、後醍醐天皇から頂いたものとのことです。

足利義兼築造による初代本堂は、残念ながら寛喜元年(1229年)の落雷で焼失。
現在の本堂は正安元年(1299年)に、足利尊氏の父にあたる足利貞氏が再建したものです。

禅宗様の特徴は、木割が細く組物の装飾的な造りが多い点とのこと。
ちなみに本殿正面の彫刻や装飾には、江戸時代に施されたものも含まれているそうです。
本堂では御朱印の頒布や御城印の販売がされており、日本100名城スタンプが置かれているのもこちら。
「一切経堂」足利満兼が再建した重要文化財

一切経堂
境内には本堂以外にも多くの文化財があり、見どころが多いですよ。
経典を納めたお堂「一切経堂( いっさいきょうぞう)」は元は足利義兼が創建しましたが、現在の建物は応永14年(1407年)に足利満兼が再建したものです。建物は国の重要文化財に指定されています。
堂内の中央部には一切経2千巻あまりを収めた、高さ15m程の八角型の輪蔵(経棚)があります。
その取っ手を押して1回転させると、なんと!経典をすべて読んだのと同じ御利益が頂けるとのこと。
随分便利な、もとい、随分ありがたい器機があるんですね。初詣の時期や春秋の大祭に一般公開されます。
「多宝塔」徳川5代将軍綱吉の母・桂昌院が再建

多宝塔
こちらの「多宝塔」には、金剛界大日如来本尊前と勢至菩薩(二十三夜尊)が祀られています。
建物は、徳川5代将軍綱吉の母・桂昌院(けいしょういん)が元祿5年(1692年)に再建したもの、と伝わっていました。
ですが調査にて寛永6年(1629年)の銘が見つかっており、築年代はさらに古いことがわかっているらしいです。
ここで、徳川将軍家が登場してきました。
徳川家は上野国新田の徳川氏を遠祖とし、近隣の徳川郷(現、群馬県太田市)を祖先の地としています。
ゆかり地に近いこちらも徳川家と縁があったようですね。塔内には足利家の大位牌とともに、徳川歴代将軍の位牌が祀られています。
桂昌院(1624-1705年)
徳川3代将軍・家光の側室で、徳川5代将軍・綱吉の生母として大きな影響力を持った人物。
綱吉政権下では寺社の造営・修復を積極的に支援し、文化事業の後援者としても知られ、徳川幕府の政治・文化に深い足跡を残しました。

多宝塔のそばには、樹齢550年前後といわれる大銀杏が青々と生い茂っていました。こちらは県の天然記念物に指定されています。
秋の色づいた季節に訪問するのも良さそうですね!
足利氏は鎌倉幕府執権・北条氏との繋がりが深かった

多宝塔の近くは、吉田兼好の「徒然草 第二百十六段」が彫られた石碑もありました。
内容は鎌倉幕府5代目執権・北条時頼が、足利3代目当主・義氏の所に立寄り宴が催された時のことで、北条氏と足利氏の親密さが伺えます。
その中で注目したい点が、時頼が「毎年頂く足利の染め物(織物)が待ち遠しくて仕方ない」と言ったのに対し、義氏が「用意してありますよ」と応えている箇所。
織物の町として知られる足利市ですが、鎌倉時代には既に織物が名産物だったことがわかり、地元の産業の歴史を知る上でも興味深い内容です。
足利氏と北条氏の繋がり
鎌倉幕府初代執権であった北条時政の娘・時子は、有力御家人である足利義兼の正室でした。時子は源頼朝の正室・北条政子の妹にあたります。
北条時子は後の足利氏嫡流を継ぐ足利義氏の母であり、この婚姻により足利氏は北条氏との関係を深め、幕府内での地位を固めてゆきました。
北條時子を祀る「蛭子堂」など

蛭子堂
北側にもいくつかのお堂が並びます。
こちらは、足利義兼の妻・北條時子が安産守護として祀られている「蛭子(えびす)堂」。

大黒堂
校倉(あぜくら)風の「大黒堂」には、宝物が収蔵されていました。宝暦2年(1752年)に再修された建物です。

大西堂
足利尊氏を祀っていた「大西堂(おおとりどう)」ですが、明治時代中期頃からは大酉大権現を本尊とするようになりました。
「御霊屋」足利氏祖先を祀る徳川家斉寄進の社殿

御霊屋
境内北西の奥まった場所にある「御霊屋(おたまや)」は、板塀で囲まれた特別感のあるエリア。
ここは先祖の霊をお祀りする施設で、特に神聖な場所とのことです。
現在の建物は徳川11代将軍・家斉が寄進したもので、屋根には徳川家の三つ葉葵の家紋が輝いていました。
敷地内には拝殿と本殿が配されています。

御霊屋
本殿には源氏の祖が、拝殿には足利15代将軍・足利義昭像が祀られているそうです。
さらに本殿裏手には足利義兼の父である義康と、祖父の義国の墓所があります。
御霊屋の内部は見学できませんでした。
「鐘楼」鑁阿寺建立当初の建造物

境内の南東側は庭園風になっており、緑が楽しめます。

鐘楼
一画には鑁阿寺建立当初に足利義兼が建てた鐘楼が現存しており、国重要文化財に指定されています。
さらに元祿時代に再鋳された梵鐘も、戦時の供出を免れ残っているとのこと。

境内周囲の土塁上から外側周囲に水堀を望む。
多くの貴重な文化財に出会え、足利氏の歴史に触れることができる好スポットでした。
「太平記館」大河ドラマ・太平記のロケ地だった足利

平成3年(1991年)に、真田広之氏主演で足利尊氏を描いたNHK大河ドラマ「太平記」が放映されました。
当時放映を記念して足利氏ゆかりのこの地に建てられた「太平記館」が、現在も観光施設として活用されています。
撮影時は足利市に鎌倉や京都の町並みを再現したオープンセットが作られるなど、大々的にロケがおこなわれたそうなんですよ!
太平記館は鑁阿寺から歩いて2~3分の場所なので、訪問時には休憩がてら是非立ち寄ってみて下さい。
室町幕府初代将軍・足利尊氏を真田広之が演じ、高視聴率で話題を呼んだ伝説の大河ドラマ!
鑁阿寺(足利氏宅跡)の詳細情報・アクセス
鑁阿寺(足利氏宅跡)の詳細情報
鑁阿寺(足利氏宅跡)
公式ページ
住所:栃木県足利市家富町2220(GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)
・JR両毛線「足利駅」から徒歩約10分
・東武伊勢崎線「足利市駅」から徒歩約10分
車)
・北関道自動車道「足利IC」から約15分
・境内無料駐車場50台
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足利市市内の移動情報と足利市へのアクセス
市内を循環する足利市路線バス「あしバスアッシー」が利用できます。
主な観光スポットの最寄りバス停:鑁阿寺「大日西門」、足利学校「足利学校東」、織姫神社「通5丁目」、あしかがフラワーパーク「あしかがフラワーパーク駅入口」など
足利市のあしバスアッシーのページ
足利市へのアクセス
電車)
・東武鉄道「浅草駅」から東武伊勢崎線の特急りょうもう号利用で約70分乗車。「足利市駅」下車(乗り換えなし)。
・JR「上野駅」から東北新幹線又は宇都宮線で「小山駅」下車、両毛線に乗り換えて小山駅から約40分、「足利駅」下車。
・JR「高崎駅」から両毛線乗車にて約60分、「足利駅」下車
車)
・北関東自動車道「足利IC」から市内まで約10分。

鑁阿寺に出かけてみませんか?
国宝指定されている鎌倉時代の貴重な本堂は貴重。
そして本堂のみならず、境内にはその他の見どころも多かったですよ。
特に江戸時代に徳川将軍家とのつながりが深かったのは、意外でした。
近隣には現存の日本最古の学校遺跡「足利学校跡」もあり、あわせての訪問をお勧めします。
歴史を感じられる鑁阿寺へ出かけてみませんか?
記事の訪問日:2022/8/19



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住所:栃木県足利市昌平町2338(GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)
・JR両毛線「足利駅」から徒歩約10分
・東武伊勢崎線「足利市駅」から徒歩約10分
車)
・北関道自動車道「足利IC」から約15分
・境内無料駐車場50台
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住所:栃木県足利市西宮町3889番(GoogleMapで開く)
電車)
・東武伊勢崎線「足利市駅」より徒歩30分
・JR両毛線「足利駅」より徒歩30分
車)
・北関東自動車道「足利IC」より約10分、「太田桐生IC」より約15分
・東北自動車道「佐野IC」約30分
・無料駐車場あり
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あしかがフラワーパーク
住所:栃木県足利市迫間町607(GoogleMapで開く)
アクセス:
電車)
・JR両毛線「あしかがフラワーパーク」駅、徒歩5分
車)
・東北自動車道「佐野藤岡IC」より約20分
・北関東自動車道の「太田桐生IC」より約25分、「足利IC」より約20分、「佐野田沼IC」より約17分、「出流原スマートIC」より約15分
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栃木蔵の街
住所: 栃木県栃木市倭町13-2(GoogleMapで開く) *住所は蔵の街第一駐車場
アクセス:
電車)JR・東武「栃木駅」から徒歩約15分
車)東北自動車道「栃木IC」から約15分
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